第6話 覚悟の前で
祝五千文字突破!
どんどん長くなる…。
数時間前
「何だったんだ一体?」
俺はアルムを見送った後、ハナエさんに手伝ってもらいながらなんとか夕飯を作り終えた。その片付けも終え、割り当てられた部屋でくつろいでいた時に呟いた。
せっかく俺の力の詳細がわかったのにそれを聞かずに部屋に籠りっきりなんて、『見損なった』なんて言われたからには見返してやろうと思っていたのだが。
「そうだ、部屋に行けばいいんだ」
俺はさっそくアルムの部屋に行く。するとハナエさんがアルムの部屋のドアの前に立っていた。
「あら、カイ君」
「どうしたんですか?」
俺はハナエさんに聞く。
「呼び掛けても返事がないの」
ハナエさんは心配そうに言った。
「こんなこと今までなかったのに…」
試しにノックしてみる。しかし、何も反応がない。
「アルムちゃーん。起きてる?」
返事はない。ドアノブを回すと
「…開いてる?」
鍵はかかっていない。この展開どこかで見た気がした。
「あら、寝てるのね」
ベッドを見てハナエさんが言う。ベッドには人がそこにいるような膨らみがあった。
「邪魔しちゃ悪いから、あたしは行くわ」
そう言ってハナエさんは自分の部屋に入っていった。
俺はアルムの部屋に入った。月明かりがわずかにあるため歩くには困らない。
「アルムちゃん、伝えたいことがあるんだ」
何故かわからないが、アルムなら言ってもいいと思った。俺が『転生者』であることを、言ってもいいと。
「…?」
とここで違和感を感じた。布団被りすぎじゃね?いくら夜は冷えるといっても頭まで被る必要あるか?
「寒がりかお前は?」
布団を直してやろうと思ったその時、気づいた。
ベッドで寝ていたのは人形だった。
「……は?」
頭の中が真っ白になっていく。考えろ落ち着け。なんだ?何が起きている?
混乱する中で一つ言えること、それは『今アルムは家にいない』ということ。
「何で…?」
俺はつい後退りする。ドンッと腰のあたりに何かがぶつかった。ドサッと何かが落ちる音もした。
「なんだ?」
机の上の本やプリント等が俺がぶつかったことで落ちたようだ。
『魔錠の管理方法』『回路への干渉による魔法演算機の影響』
一度みたことある文字の中に何か違和感を感じた。
「これは…?」
『本邸図案―宝物庫及び展望館―』
それはどこかのお屋敷の設計計画書だった。何が書いているかは詳しく分からないが、少なくともこんな家にあっていいものじゃない。所々に引かれた色線、メモされている内容、そして
「侵入…経路?」
まさか、アルムはこのお屋敷に侵入しようとしている?
信じられない、信じたくない。何かの間違いだと思う。でも同時に
「でも何故?」
と考えてしまう自分がいた。それを知っている人がいるはずだ。アルムが確実に変わった瞬間、あの時だ。電話がかかって来たとき。
「ハナエさん、電話帳あります?」
俺は居間でゆっくりしていたハナエさんに聞く。
「電話帳ならそこの電話のそばだけど、どこにかけるんだい?」
電話帳をめくりながら俺は答える。
「『キナカ質屋』です!」
「もしもし、『キナカ質屋』です。申し訳ないですが本日の営業は終了して―――」
「アルムについて教えてください」
俺はキナカさんの言葉を遮るように言った。
「あーあ、君はアルムちゃんのそばにいた男の子だね」
キナカさんは軽く笑う。
「君がよく知ってるんじゃないの?」
「そうか、答える気がないなら質問を変えます。アルムに何を言った?」
少しの沈黙。先に口を開いたのはキナカさんだった。
「呼び捨てで呼ぶんだね」
「ごまかさないでください」
「俺はなーんにも言ってないよ。ただ『足りない』って言っただけだ」
「どういうことですか?」
「言葉通りだよ。質屋が『足りない』って言ったんだから意味は分かるでしょ」
キナカさんは遠回しに答える。
「ま、詳しくはアルムちゃんの部屋にあるでしょ。アルムちゃん真面目だからちゃんと勉強したことをまとめているんだ。それを見てみなよ」
「おい、どういうこと?」
俺の質問に答えずにキナカさんは電話を切った。
再度アルムの部屋に来た俺はあの緑のファイルを手に取った。開いて見ると
『魔法干渉による曲解率の変化と活用案』
『無限空間の発生魔法』
よく分からないとこは飛ばしていく。そこに
『魔結晶について』
との記述があった。俺は気になって読んでみる。
「そういうことか…」
俺はなんとなくだがアルムの目的がわかった。
「どこに行くんだい?」
ハナエさんが聞いて来た。
「ちょっとコンビニに」
問いただされるかと思ったが、どうやら怪しまれなかったようだ。
俺は夜の異世界を走る。少女を止めるために。
そして、見つけた。
銀に近い白色をした髪が月明かりに輝いていた。間違いない。
「アルム!」
俺は呼び掛ける。しかし、アルムは反応しない。
「クソッ!」
俺はアルムの元へ駆け寄り肩を掴んだ。
そして―――今に至る。
血は流れていない。傷は浅いようだ。アルムは聞く。
「やっぱり…って?」
「最初に思ったんだ」
買い物袋が浮いていたこと。あれを見た時に思った。異世界すげえ、魔法すげえって。
「でも違った」
アルムに置いていかれた日、色んな所をさ迷った。その時にカバンや買い物袋を見たが、
「浮かび上がる買い物袋なんてどこにも売ってなかったんだ」
つまり、買い物袋が浮くのは別の理由からだ。
「次に質屋での一件」
あの人形はかなり大きな人形だったが、アルムの麻袋に変化はなかった。でも、
「物が無限に入るカバンなんてどこにも売ってなかった」
以上の理由から、
「アルム、お前は『魔法使い』だ」
それを聞いてアルムは
「……はぁ」
ため息をついて、
「あなた、思っていたよりバカ」
と言った。
―――えっ?
思考が止まった。俺はバカって言われた?
「な、何で!?」
そんな、すごーいとかよくわかったなとかそういうのないの?
「私、さいしょに『あなたと同じ』って言った。それを忘れてどや顔で推理披露されても困る」
いや、そんな事いっても
「だいたい、ヘレティッカー=魔法使いは常識」
心にダメージ。いや知らないよそんな事。俺は投げやりに言う。
「じゃあ、そんな『魔法使い』さんが家を抜け出してなにしてんの?」
ピキッ、とアルムの表情が凍った。そして、
「……あなたに関係ある?」
と言った。その目は俺を射るような、冷たい目。
「そうか、答える気がないなら質問を変えるよ」
俺は一度区切って、アルムの目を見る。
「『魔結晶』をどうして盗みたい?」
アルムの目が一層冷たくなった。
「まさか、あのファイルみたの?」
「お前も俺の荷物勝手にあさっただろ?」
アルムは「ぐっ…」と息を詰まらせる。
「おあいこだ」
アルムは息をゆっくり吐いて、言った。
「みたなら話が早い。私は本気。計画は完璧なの。止める理由がないなら帰って」
「止めに来た、と思っているならそれは正解だ」
俺はアルムの後ろに回って言った。
「行くな」
「そこどいて」
アルムは俺を冷たい目で見ながら言った。
「どかないなら殺す」
殺す、その言葉は今まで聞いたことないぐらいにとても重かった。それだけアルムは覚悟しているのだろう。でも、
「…ダーヴィッツ家の『本邸』は『魔力観測装置』とか言うものを導入したらしい」
俺はどうしても聞きたかった。
「なにを言って―――」
「お前の計画に『その事』は入っているか?」
アルムは何も言わない。
「入ってないだろう?ほら、完璧じゃないだろ」
アルムは口を開いてなにかを言おうとしたが、俺はそれに被せるように言う。
「それにもしもだ、警備員に気づかれたら?
『魔結晶』の保管ケースがお前の魔法で壊せなかったら?家の人間と出くわしたら?」
「そんなことあるわけない」
アルムは言う。その声は少し震えていた。
「あるわけない、あり得ない。何度も下見をした、準備もしてきた、勉強して、シミュレーションもした!ぽっと出で私の計画を見ただけのあなたに、わかるわけない!!」
アルムは声を荒げて、震えた声で叫んでいた。
「私がどれだけ頑張ったか!どれだけ悩んだか、あなたに分かる?分からないでしょう!『魔法使い』として生きてきて、なんでもできる『魔法使い』になりたくて!それでも…。それでも…」
アルムは思った。私は何を言っているんだろう。出会って二日の人間に、何でこんなことを言っているんだろう、と。
「おばあちゃんは私に言ってくれた。『どんなに人と違っても、アルムはあたしの大事な孫だ』って。そんな大好きなおばあちゃんが『魔力量減少病』になって、死んじゃうかもしれないって」
「ちょっと待て、なんだその『魔力量減少病』って?」
知らない単語が出てきた。それになんだ?
「ハナエさんが病気?」
よろけたりするのは年のせいだと言っていた。俺もそうだと思っていた。しかし、どうやらそれは違うらしい。
「おばあちゃんはまだ、六十五歳よ。まだよろけたり寝込んだりしている年じゃない」
「でも、今日だって物置の整理してたし…」
「その病気は日によって元気な日と体調の悪い日が一定の周期でくる。今は平気だけどそのうち体調の悪い日が多くなって、最後は…」
アルムはそれ以上言わず、きゅっと唇を噛んだ。
「治らないのか?」
この世界の医療技術はどのくらいかは分からないが、かなりのレベルだろう。何てったって『魔法』の世界なのだから
アルムは首を横に振った。
「治すことは無理、遅らせることしかできない。完全に治すには『魔結晶』が必要」
ん?ってことはそれは医療機器なのか?俺がファイルでみたのは美術品としてのものだったが。
「『魔結晶』は世界にわずかしかない。だからものすごく高い」
アルムは震える声で言った。
「あなたと私が持っていた金貨を集めて売っても『足りない』。だからもうやるしかない」
アルムはこちらに右手を伸ばした。赤色の魔方陣が浮かび上がる。
「どいて、わかったでしょ。どかないなら殺す。本気よ」
アルムは、何があったか分からないけどおばあちゃんに救われたんだ。俺は思い出す。
たくさんの人。うわべだけで笑い、すり寄ってくる大人。お互いにけなし合い、一人をおとしめて、それを笑うクラスメート。
灰色の日々に色をつけ、俺を導いたあの本。
アルムにとってハナエさんは、俺にとってのあの本なんだ。だからこそ
「…警備員に見つかったら、そうやって魔法で殺すのか?」
アルムの動きが止まる。
「それをハナエさんは望んでいるのか?」
「…るさい」
少し意地悪な言い方になるが、これしかない。
「人を殺して手に入れた道具で救われて、ハナエさんは喜ぶのか!?」
「うるさい」
アルムの覚悟を踏みにじる。助けたい人を引き合いに出し、助けることをやめさせようとする。
「その覚悟があるのか?」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!決めたのよ!おばあちゃんを助けるためなら何だってするって!!」
アルムは叫ぶ。怒りのこもった、燃え上がるような青い瞳で俺を睨む。
「そこをどけええええぇぇ!!」
赤色の魔方陣から赤い羽根のようなものが俺に飛んでくる。
今度は死んだな。俺は目を閉じる。
「…なんで?」
目をゆっくり開ける。羽根は俺の眼前五センチで止まっていた。
「なんで、死ぬかもしれないのに……」
アルムはただただ俺を見つめていた。
「そんなに…優しい顔でいられるの?」
一瞬死んだなと本気で思った。でも考えた。そんなことはないと。
「だって、アルムは優しいから」
「そんなこと…だって私があなたを助けたのは、あなたの『力』が目当てで、別に―――」
「普通見ず知らずの相手にあそこまでしない」
いくら力が目当てでも、弾圧されている『魔法使い』であるアルムが魔法で傷を治すのは危険だ。
「それに、いつまでもいていいって言ってくれた」
あの時のアルムは俺の力の詳細を知らなかった。つまり、俺を泊めておく理由がないはずなのにアルムはそう言った。
「そんな子が、俺を殺す訳がない」
俺は笑った。
「…バカでしょ」
アルムはそう言って俺に抱きついてきた。
「わっと、アルム?」
ちょっとやめて意識しちゃうからなんかいい匂いがするとかちょっとバストが当たっているとか。俺はシリアスな場面から目を背けるように思ってしまった。
「あなたのせいで、計画が台無し」
「元々、失敗してるよ」
だって、たぶんだけど
「俺がくること、計画になかったでしょ」
アルムは何も言わなかった。そして、
「くっ…うわああああああっ…ああああああ!」
泣き出した。何か内に秘めていたものを、一気に外に出すようにずっと泣いていた。
結局終わらない
明日高校デビューがんばります