第5話 隠してた事実―sideアルム―
祝四千文字突破!
長いよー
あっ、あと作者名を『マグネシウム』から『マグネシウZ』にしました。はい、どうでもいいですね。
深呼吸して精神を整える。周りの音が鮮明に聞こえる気がする。そして、
「はぁっ!」
右手を伸ばす。しかし、何も起こらない。もう一度やってみる。
「はぁっ!」
また、何も起こらない。
「…どうして?」
アルムが呟く。
「どうして何も起こらない?」
そんなの俺が聞きたい。
「俺の…力?」
「そう」
そう言ってアルムは近くの切り株のような椅子に座って言った。
「あなたのその、『モノを一瞬で移動させる魔法』。私見てた」
俺はあの時のことを思い出す。確かに信号機の連中に盗られた財布や本は俺の手元に瞬間移動していた。
「あれを見てどうするの?」
俺はアルムに聞く。
「もう一度やってみて、とにかくすぐに。じゃないと『治安維持局』に『部屋に勝手に入って来た変態』としてつきだす」
冗談だよね?ねぇ目が本気なんだけど!?
「あそこに置いてある壺。あれを取って」
俺の心配をよそにアルムは言う。
「できたら許してあげる」
そして今現在、
「おかしいな…?」
俺が覚えている限り二十五回ほどやっているが、壺がこっちに来るどころかあの光すら出てこない。
「何か足りないのかな?」
俺は呟く。あの時のことをもっと詳しく思い出す。俺はどんな状況だったか。ボコボコにされ、意識はもうろうとして、それでもあの本をじっと見ていて、『盗み返す』と言った。―――言った?
俺の中で何かが光った。もしかしたら、
「アルム!どの壺だ?どの壺を『取れ』ばいい?」
切り株でうなだれるアルムは顔をあげて
「なんでもいいけど、あの紫のまだら模様の壺でいい」
アルムの声にはすでに諦めの色が出ていた。
「よし、あの『紫のまだら模様の壺』を『取る』ぞ!」
「そんな事言われても、どうしたの?」
アルムはこちらを見て言った。
「次は、成功させる!」
俺が言うと、アルムの目の光が強くなった。
深呼吸をして精神を整える。周りの音が鮮明に聞こえてくる気がする。
「はぁっ!」
右手を伸ばす。そして―――。
何も起こらない。
「……は?」
えっ?どうして?おかしい。
「…できてないじゃない」
アルムの冷たい声が聞こえた。
俺の予想ではこの力は他人に宣言しなければ発動しない。そんな不便な力だと思ったのだが、違ったか?
「見損なった、役立たず」
アルムはそう言って切り株から離れていった。
「おっかしいな?」
俺は壺に近づく。すると、青白い光が俺の手元に表れ、
「えっ?」
壺が手元に来た。宣言した通りの紫のまだら模様の壺。
やった!成功した。胸の奥の方から沸き上がる喜びに手元が震える。しかし、何が違った?俺が壺に近づくと発動した。でもさっきは発動しなかった。ここから導かれる結論はただひとつ。
「距離だ…。この力には射程がある」
それが分かれば話は早い。条件がわかればあとはどれくらいの距離で発動するかのテストだ。
「アルム!成功した!色々試してみた―――」
俺は後ろを振り向き、アルムを呼んだ。
しかし、そこには誰もいなかった。
「……えっ」
置いてかれた。道が分からない。帰れない。
戸惑いや怒りよりアルムの「役立たず」という言葉が不思議と心に刺さった。何故そんな事を言われたかわからないが。
「あそこにある…」
アルムは呟く。今見ている建物の中に、自分が望む物が。
あの少年を見た時、心の底からわくわくした。あんな感情久しぶりだった。そして使えると思った。今、自分の目的のためにあの少年が必要だと思った。
部屋に運び、傷の手当てをした。荷物を見て、名前が『キシモト カイ』ということがわかった。カイが起きた時、純粋に感謝を感じている目を見て、罪悪感を感じた。何も知らない少年を自分勝手に巻き込もうとしている自分が嫌になりそうになった。
あの力が使えないとわかった時、失望したと同時に少し安堵した自分がいた。巻き込まなくていい、何て考えていた自分に驚いた。
「時間が無い、やるなら三日間の内」
そう言ってアルムは麻袋から入るはずの無いような大きさの機械を取り出した。
「一人でやるしかない」
自分に言い聞かせるように呟き、木の上からその機械を落とした。
アルムの視線の先には川沿いの大きな塔が見えていた。
アルムには聞こえなかった。その家の門番の会話を。
「聞いたか?今日から『魔力観測装置』入れるらしい」
「なんでも泥棒が入ったらサイレン鳴らして知らせてくれるらしい」
「でも、主人もバカだろ。ドアにしかつけないなんてな。窓から入って来たらどうすんだってな」
「まあ、宝物庫は塔の二階だし、『貴族』の屋敷に忍び込むバカもなかなかいないと思うけどな」
そんな会話を影で聞いている人影が一つ。そのこともアルムは気がつかなかった。
「あー、疲れたー」
俺は言わずにはいられない。見知らぬ街で一人置いていかれ、挙げ句道も教えられず街をさ迷った。家に着いたのは日がくれる頃。
「まあ、収穫はあったけどな」
俺はアルムに置いていかれた後、一人で特訓をし、この力の特徴を掴んだのだ!
「ただいまー、じゃなかったお邪魔しまーす」
そう、一応アルムの家なのだ。自分の家のように振る舞ってはならない。
「ただいまでいいよ」
ど思っていると家の奥から声が聞こえた。行ってみるとハナエさんが何か作業をしていた。倉庫だろうか?物が乱雑に置かれている。
「ハナエさん、大丈夫なんですか?」
昨日あんなものを見せられたら心配になる。しかし、ハナエさんは
「大丈夫、よくあること」
と言って笑った。よくあるのも心配だが…。
「カイ君、ちょっとそこの棚の箱を取ってくれないかい?あたしじゃ届かなくて」
言われた棚をみると箱がたくさん並んでいた。
「すいません、どの箱ですか?」
ハナエさんに尋ねる。
「あの黄色い箱だよ。黄色の縞模様が入っているやつ」
黄色い箱は俺の背より少し高い所に置いてあった。確かにハナエさんでは届かない高さだ。
「わかりました、『黄色い縞模様の箱』を『取り』ますね」
俺はハナエさんに言う。ハナエさんは
「あぁ、取ったらこっち持って来て」
と言って、離れていった。
「はい、わかりましたっ」
言いながら右手を伸ばす。俺の手元と箱が青白い光に包まれる。そして、一瞬にして箱は俺の手元へ移動して―――
「重たっ!」
急激に重さがかかり、落としそうになる。
これが俺の力、名前はまだ無い。条件としては
①他人に『何を取るか』を伝える
②対象から半径大体三メートルぐらいに入る
③取るものを視認する
これらの条件を満たして発動する。大体意識すれば一瞬で発動する。
アルムとやった時は距離が届いてなかった。だから発動しなかったのだ。これがわかればこの力を使いこなして―――どうするんだ?
「ありがとう、助かったよ」
ハナエさんに箱を渡して俺は考える。
この世界には魔王も勇者もいない。この力を駆使して戦う相手がいないのだから使い方が分かってもしょうがないのではないか?
仮に今のこの世界での使い道はあるのか?魔法使いが『異端者』として弾圧され、『魔法使い』などほとんどいない状況でこの力がバレたら?あの信号機の連中の怖がりようを思い出すと相当この世界では恐れられていることがわかる。
「ところでカイ君」
じゃあ、俺がここに来た意味は?
「カイ君」
「はい!?」
すっとんきょうな声をあげてしまった。また周りが見えなくなっていたようだ。
「アルムはまだかい?」
「えっ?帰ってないんですか?」
そういえば、まだアルムの姿を置いてかれてから見ていない。
「一緒じゃなかったのかい?」
「すいません、置いていかれました」
するとハナエさんは笑いながら
「はは、好かれたね」
「いや、どこがですか」
なんてことを言うんだこの人は?老人は何を考えているか分からない。
そんな事を思っていると急にハナエさんは笑顔を消して、
「カイ君」
と神妙な顔で言った。
「あの子を、アルムを頼む」
とかいい始めた。
「ちょっと、何を言っているんですか!いや見知らぬ人間に―――」
孫を頼むとかどうなんだとか、そういうのがハナエさんの迫力で言えなくなった。ハナエさんは続ける。
「アルムに、色々教えてやってくれ。あたしが教えられなかった色々なことを」
そう言ってハナエさんは俺の手を握って
「頼む」
と言った。その顔、その目は純粋に孫を思う気持ちで溢れていた。
何故か、この目に答えなければならない気がした。
「わかりました」
俺はハナエさんの手を握り返した。
「さて、アルムも帰って来たみたいだしそろそろいこうかね」
そう言ってハナエさんは「どっこいしょ」と言いながら立ち上がった。今度はよろけなかった。
「何か落ちてますよ」
俺はそれを拾って言った。灰色の目元だけを隠すような仮面だった。
「ありがとう、それをアルムに探してくれって言われたんだよ。そんなオンボロ魔法具をどうするのかねぇ」
この仮面が魔法具か…。着けたら何か強くなるだろうか?
着けてみた。つけ心地はいい。周りを見渡すと暗いところもはっきり見える。
「それは四十年前にあたしがいた劇団で使ったんだ。懐かしいねぇ。それを着けるだけで衣装が一瞬で着れるんだよ」
どういうことかと尋ねようとしたその時、紫色の光が俺を包んだ。
「な、なんだ?」
と思ったらいつの間にかスーツと黒いシルクハットを着ていた。
「何してる?」
アルムが来て尋ねた。俺を見て、
「それ貸して」
と言った。言われた通り仮面を外すと衣装が一瞬で消えた。
「これが魔法具か…」
俺は呟き仮面をアルムに渡す。
「おかえりなさい、アルム」
とハナエさんは言った。
「ただいま」
アルムは優しい顔で言った。そして俺に向き直り
「その、えーと」
何か言いたそうにしていた。こういう時は俺から、
「アルム、あの事なんだけど―――」
電話の音がした。アルムの方から音がした。会話を遮られてしまった。
「もしもし」
アルムは携帯のような魔法具を耳にあてた。会話をしているとだんだんアルムの顔が曇っていった。
「わかった」
そう言ってアルムは通話を切る。そして、そのまま倉庫部屋を出ていく。
「あの、アルム」
俺は呼び掛ける。
「ご飯は自分で作ってくれる?」
アルムは言った。
「おばあちゃんの分もよろしく」
振り向きながら言う。
「あと、この家にいつまでもいていいから」
アルムは笑いながら言った。その顔は少し寂しそうだった。
俺は何も言えず、アルムを見送った。
闇がその場を支配していた。誰もいない。何も見えない。
その中で動く影が一つ。誰もいない道を歩いていた。
「大丈夫、できる」
アルムだ。自分に言い聞かせるように呟く。
彼女がこんな時間におばあちゃんにも言わず、外出している理由。それは『貴族』の屋敷に忍び込むためだ。
「足りないね」
キナカからの電話で全てを知った。
「確かに保存状態も良いし本物だけど、需要があまりないから価格も下がる」
質屋に行って、結果を見て決めようと思った。でも足りなかった。やるしかない。何度も自分に言い聞かせて来た。あの時からずっと、これしか方法がない、仕方ないことだと、大丈夫できる、だって私は
「『魔法使い』だもの」
その呟きを闇に溶けて消えていく。
おばあちゃんが知ったら怒るかな。ふと思った。それでもこれはおばあちゃんのため。
「やるしかない」
何度も繰り返し、自分を納得させる。
あの少年の声が聞こえた気がした。アルムは自嘲気味に笑う。まだ諦めてなかったなんて。
「アルム!」
ほらまた聞こえた。しっかりしなさいアルム。
不意に肩を掴まれた。驚きと共に恐怖を感じた。バレたらどうしよう、『治安維持局』が来たのか?
「《水の聖霊の刃よ》!」
振り向きながら頭の中で呪文を詠唱する。目の前に青い魔方陣が浮かび、氷の刃が飛び出す。そのまま相手を貫―――けなかった。
「…何で?」
アルムは唖然とした。
「なんであなたがここに?」
魔方陣を見た時、死ぬかと思った。全力で顔を右に反らしてかすり傷ですんだ。
「なんであなたがここに?」
アルムは呆然としていた。俺は言う。
「やっぱりお前、『魔法使い』だったんだな」
見てて分かる、伏線回収下手くそか!
春休み中に終わらないかもだけど許してね