第4話 魔法世界の生活情報
学校行きたく無いなー
書いてる時間が無くなるかもだなー
現代に欠かせないガス、水道、電気等のいわゆるライフライン。これらは全て、地球の資源を使っている。
ガスと水は言わずもがな、電気は風力や太陽光を使った発電方法があるが、日本は未だに石炭等の化石燃料を使う方法に依存している。
これらは人間が自分たちだけではできないことを実現させるためのエネルギーを得るためだ。
さて、これが何でもできる魔法の世界だとどうなるか。答えは簡単。
「ガス?なにそれおいしいの?」
こうなる。
「すげぇ、ガスを知らないってどうやって料理してんだ?」
夕飯時、俺は言い付けを守らずおもいっきりキッチンに入った。それはそれは異質な光景が広がっていた。
まず水は普通に出る。これは公園で見たので素晴らしい浄水技術があるのだろう。
問題はガスコンロだ。ガスの元栓が無い。つまみを押すとカチチチチッという独特の音がせず、ポワンと光って火がつく。
電灯が光っている。スイッチを押すとカチッという音がして消える。もう一度押すとつく。
「なあ、どうして火がつく?電気はあるのか?てか、仕組みはどうなって―――」
「うるさい!食事中は静かに!」
アルムにおもいっきり怒られた。
夜、俺はアルムの話を思い出した。
「どうやって火がつくって、そんなの『魔力』をそこのコンロで火の魔法に変換しているに決まっているじゃない」
さらに「常識」とも言われた。うーん、そんなこと言われても困る。
「この世界について、知らないことばっかしだもんな」
自由に使っていいと言われたアルムの部屋で本を読みながら呟く。
この世界の地球―――と、仮定する。なぜならおもいっきり世界地図が違ったからだ。―――では『魔力』『竜脈』と呼ばれるエネルギーが流れている。理屈はよくわからないが、ある意味資源と考えていいだろう。
それをうまいこと利用しているのがこの世界のガスや電気の代わりらしい。
水道は浄化魔法を使用しているらしい。この魔法の一般実用化には様々な汗と涙と努力と感動の物語があったらしいが、それは別の機会に。
「…?」
本を棚に戻そうとした時に気づいてしまった。なんだろう、このファイルは?
緑色の少し細めのファイルだった。背表紙のところには何も書いておらず、本棚にひっそりと置いてあった。手に取って中身を見ようとすると
「何してるの?」
飛び上がるかと思った。ドアの方を見るとアルムが立っていた。
「いや、そのー」
「そのファイルは見ないで」
何か言おうと思ったところでアルムが言った。
「それはプライベートなやつだから」
そう言ってアルムはこちらに近づいて、俺が持っていた本をしまった。
「はい、すいません」
プライベートなものと言われれば何も言えない。俺はおとなしく謝った。
「わかればいい」
アルムは部屋を出ていった。そして
「あなたは下の部屋で寝て」
と言った。
「だろうな」
俺は言った。いくらなんでも夜は自分の部屋で寝たいだろう。昼まで俺が寝ていた…!?
「はあ!?」
俺はアルムを二度見した。
翌日
目が覚めた。
「今何時だ?」
俺はベッドの側のスマホを取って…スマホが無い。
「えっ?」
思考が止まった。落ち着け、考えろどうしたっけスマホ。確か昨日はジャージの女神に会って、公園で水飲んで、コンビニ行って、ボコボコにされて、少女の部屋で目が覚めて
「まさか…」
俺は部屋を出る。アルムの部屋の奥がハナエさんの部屋で廊下を挟んで正面が俺が寝ていた部屋だ。
廊下に出て部屋のドアをノックする。
「アルムちゃん?アルムちゃん、起きている?」
返事はない。俺は続ける。
「俺の荷物あっただろ?風呂入る時に服と一緒に置いておいたやつ」
スマホに財布、学生証とあと、あの本。
「いろいろあって忘れていたけど、あれどうした?」
返事はまだ無い。ドアノブを回すとドアが開いた。
「…入るよ?」
一歩足を踏み出して部屋に入る。そこで見たのは―――。
机の上に散乱するプリントや紙。その側に置かれている俺の荷物類と麻袋とそして
「…ん、むにゃむにゃ」
ぐっすりと眠るアルムの姿。
「えーと、あれ?」
これはどんな状況だろうか。落ち着け、状況を把握しよう。
俺は荷物がいたずらされているのではないかと思いアルムを直撃した。ところがアルムは夢の中。このままじゃ完全に俺が犯罪者。
「…失礼しました」
荷物を取ってそうそうに部屋を出ようとする。机に近づいて置かれているプリントが目に入る。
『魔錠の管理方法』『回路への干渉による魔法演算機及び関連魔法具への影響』『魔法使いに見られる傾向とその有用性』
見ただけじゃ何のことかさっぱりわからない。どうやら勉強していて片付けずに寝てしまったようだ。
俺はアルムの顔を見る。その寝顔はとても安らかで、カーテンから射し込む朝日を浴びて輝いてみえた。俺はなんとなく頭を撫でてみようとする。
「ん、うーん…」
アルムが眩しそうに目を覚ました。
「…ん?」
何度か瞬きして俺を見る。そして、寝ぼけた目で俺が伸ばした手を見る。
「あー、おはよう」
なんだか気まずくなってとりあえず挨拶をする。
「……!?」
アルムは目を見開き、その顔に恐怖を浮かべた。
テレッテレー♪
ここで問題です。今起きたアルムにはこの状況どう見えるでしょうか?
1、イケメンが起こしに来てくれた
2、不審者が襲いに来た
3、季節外れのサンタが来てくれた
さあ、どれでしょう?
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
答えは2!
直後、顔に衝撃を感じて、俺の視界が回転した。
「本当にすいません」
顔を紅葉型に腫らして俺は言った。アルムは怒っているのか朝食を作りながら全く会話をしてくれない。
いや、俺が悪いってのはわかるよ?でも荷物を預かってそのままっていうのもどうかと思うし、知らない男が寝ていたベッドで寝るほど図太い神経を持っているなら大丈夫だと思うじゃん?
(…なんて言えないしなぁ)
今そんな事を言えば火に油を注ぐようなものだ。俺はどうにか話を反らして解決させるために
「そういえば、すごい勉強しているんだね?机の上にいっぱい本とかプリントとかあったけど凄いね」
と言った。相手をほめて怒りを和らげようとする作戦だ。ほめられて嫌な気分になるやつはそうそういない。
その時、アルムは一瞬動きを止めた。が、すぐに朝食作りを再開した。えっ、何無反応?何かリアクションしろよ。
「ねえ」
今度は俺が一瞬動きを止めた。アルムはこちらを向いて言った。
「ほんとに悪いと思ってる?」
俺は首を高速で縦に振った。
「なら…」
そこで区切ってアルムはもう一度こちらを見て言った。
「今日付き合って」
その目は本気だった。
街は活気づき、人が何かの意思に導かれるように蠢く。その動きは流れとなり、人はそれぞれ違う表情をして流れにのる。
「通勤時間か」
俺はなんとなく呟く。この世界にも公共交通機関があり、人は会社や学校に行って生活をする。その中で
「俺達浮いてね?」
「時間帯が時間帯だから」
商店街のような通りを歩く俺とアルム。周りの人がチラチラ見てくる。朝だからかあまり店は開いていない。
「どこ行くの?結構家から遠いけど」
「黙って」
会話ぐらいしようと俺は思うが、アルムは相手にしてくれない。付き合うってもしかして散歩にか?と思うがそれすら答えてくれない。
そう思っていると一件の木造っぽい店にアルムが入った。看板を見ると《キナカ質屋》と書いてあった。
「いらっしゃい、おーおアルムちゃん。元気?そこのお兄ちゃんは彼氏?」
ターバンというのだろうか、それを顔に巻いた店主らしき男が話しかける。年齢がよく分からない。この人がキナカさんだろうか?
「ちがう、それより見て欲しいものがある」
ピシャリと否定して本題に入る。
「つれないねー」
「はい、これ鑑定して」
アルムが麻袋から何か人形のようなものと一緒に金貨、銀貨、銅貨を出した。それって?
「あなたも」
と言われたので「あぁ」と思いつき、財布からあの使えない通貨を全額取り出した。
「どれくらいかかる?」
とアルムは聞いた。キナカさんは笑って
「こんなにあるなら一日かかるよ」
と言った。
質屋を後にしてタイル張りの地面を歩き、それがアスファルトに変わり、大きな川が見え始めた。川の側に大きな塔のような建物が見えた。アルムに聞くと
「この辺で一番大きい『貴族』の屋敷の中にある飾り塔。『ダーヴィッツ家』の本邸。すごく広い」
「詳しいね」
俺が言うと何故か軽く睨んできた。解せぬ。
川沿いの細い道を曲がり、砂利道になった頃、
「あれは?」
俺は見つけた。トタン屋根の今にも崩れそうな小屋。庭のようなところに怪しい壺とかが置いてある。
「あなたを確かめるの、カイ」
そう言ってアルムは続けた。
「あなたは『魔法使い』でしょ?ならその力を私に見せて」
その目は期待で眩しく輝いていた。
後2、3話でこの1ー1終わらせるつもり
終わるかな?