第3話 女の子の部屋って絶対何か起こる予兆だよね
少し長いかなぁ。
個人的に歴史は好きです
たくさんの顔、顔、顔。回る回る仮面。能面に民族舞踊の仮面。変わったものではヒーローのお面。
俺はその中心にいた。たくさんの顔と仮面に囲まれて呆然と立っている。
アハハ、アハハハハ
仮面と顔は乾いた声で笑う。俺を見ながら回る。回る。
「やめろ…」
俺は小さな声で呟く。しかし、仮面は笑うのをやめない。
「やめてくれ…」
顔は笑う。俺を蔑み、嘲笑っている。
アハハハハ、ハハハハ
アハハハハハハハハ
「やめろおおおおおおお!」
俺は耳をふさぎ、うずくまる。それでも笑い声は聞こえてくる。
ふと、笑い声が止まった。不思議に思って顔を上げると、そこには人がいた。俺に手を差し伸べてきた。その人の手を取って立ち上がる。その人の手はとても力強く、とても儚げだった。
そして――――。
「…はあっ!」
目が覚めた。息が荒い、頭が痛い。頭を押さえると汗で髪が濡れていた。
「ひどい夢だった」
俺は呟く。あれが女神の言っていた悪夢ってやつか。と、そこで気づいた。
「・・・毛布?」
どうやらベッドに寝ていたようだ。俺は辺りを見渡す。全く知らない部屋だった。
俺の目の前には本がぎっしりつまっていて、何冊かはみ出ている本棚。その隣によく見かける勉強机。上にはパソコンのようなものが置いてあり、本が何冊か積み重ねてある。その隣にも本棚。
「痛っ…!」
体を動かそうとすると痛みが走る。節々が痛い。何故こんなことになったのか。記憶を探って出てきた映像から判断すると、
「ボコボコにされた後、運ばれたのか?」
と、ちょうどその時ガチャッとドアが開いた。
「あ、おきてる。ケガはどう?」
と、言いながら少女が部屋に入って来た。
年齢は大体15か16ぐらいだろうか。白い肌に透き通るような水色の瞳。その顔には少し大人っぽい印象を与える何かを持っている。しかし、一番目を引くのは
「きれいな髪だな」
そう、髪の毛だ。透き通るように白い。女神アリスの髪も白だったが、あれは白チョークで塗ったような白。こちらは銀に近い。
と考えていると少女は
「初対面の女の子に『髪がきれい』ってあいさつはちょっとあぶない」
と、言った。
「ああ、ごめん!いや、悪気は無いんだ!別に下心があって言った訳じゃなくてただその―――」
と、しどろもどろになる俺。そうだ話題を変えよう。
「君が助けてくれたの?ありがとう」
俺は頭を下げようとした。すると少女は
「別に、お礼を言われることじゃない」
やけにクールに言った。俺はさらに質問する。
「ここはどこ?」
「私の部屋」
「そうかー…!?」
おいちょっと待て今なんつった?
「君の部屋?」
「そう」
「てことはこれは君のベッド?」
「何をそんなに驚いているの?何か問題でも?」
大有りだよ!つまり、俺は、女の子のベッドで寝ている変態ってことになるじゃないか!嫌だ!
嫌でも待て、これは不可抗力だ。普通なら殴られるべきかもしれないが彼女は善意でやっているんだ。気にしたら逆に失礼だ!でも………
「?」
ベッドで問答してる俺に純粋な疑問の目を向けてくる少女。俺はその瞳に映るそんなことを考えている自分の姿と罪悪感に耐えきれなくなった。
「お嬢さん、世話になった。お礼は何も出来ないがこのご恩忘れない」
そういってこの部屋を出ようとした。その時、
「いっ…」
「まだ動いちゃダメ。傷は直したけどまだ体のダメージは残っている。寝てなきゃダメ」
鈍く体が痛む。少女は聞く。
「それにあてはあるの?帰るあては」
痛い所をつかれた。
確かに俺には帰るところは無い。俺は転生してこの世界に来たのだ。知り合いなどいるわけ無い。
「どこにもないならここにいるべき」
少女は淡々と告げる。俺は少し考えて言った。
「どうしてそこまでしてくれるの?君は何者?」
「それはイエスということでいい?」
部屋から出ていこうとしていた少女は振り向きながら聞いた。
「そうだね、お世話になるよ」
質問には答えず、俺の答えを引き出す。この子は何者なんだ?
「私の名前はアルム。あなたと同じよ」
アルムと名乗った少女のベッドで寝ながら俺は本を読んでいた。本人が寝てていいと言うならいいんだろう。ええ、気にしてませんよ。
「・・・そういうことか」
俺は本を置いて呟く。
俺が読んでいたのは『アーシック王国全史』という本だ。全史というから焦ったが、どうやら歴史の教科書のようだ。
この世界の俺がいるとこはアーシック王国という国らしい。『大陸』の西に位置し、西側と南側に海を持ち、東側に山脈を持つ自然豊かな国である。
かつては魔法が使われ、『魔王』や『魔物』もいた。『魔王』は『勇者』と呼ばれる存在に倒されては現れ、また『勇者』と呼ばれる存在も倒しては倒されを繰り返していた。
ある日、一人の男が『魔王』を倒した。その男は自分は異世界から来た、と話した。それ以降、何人もの人が現れた。彼らは皆、異世界から来たと話をした。彼らは『魔王』を倒しに行ったり、この世界で働いたり、団体を作って村を守ったり、様々な人がこの世界で生活していた。彼らは『転生者』と名乗り、この世界に様々な影響をもたらした。
そして今から約三百年前。一人の『転生者』により、『魔王』が完全に倒された。世界に平和が訪れた。―――とはならなかった。
『転生者』はこの世界に残っていた。その強大な『力』は争いを招いた。そしてその力故に、『転生者』はこの世界の人間から『異端者』と呼ばれた。しかし、『転生者』の知識はこの世界に急速な発展をもたらした。その時に『アーシック王国』は当時の『大王国』から独立した。
その百年後、今から二百年前に最後の大規模な対魔物戦争が行われた。それ以降、『魔物』はいなくなり、『魔法』は禁忌の技術として国が完全に管理。『魔法』を使う『魔法使い』はこの世界の『異端者』とされ、厳しく弾圧された。
『剣と魔法の世界』は完全に無くなった。
それから二百年後、俺が元いた世界と同レベルまで技術は進み、俺が約三百年ぶりの『転生者』となった訳だ。
「あの引きこもり女神め・・・」
つまり、俺は三百年前の『普通』でこの世界に送られたのだ。俺が持っている通貨はこの世界から三百年遅れた骨董品。あれ?もしかして俺、ある意味大金持ち?
「強大な力ねえ…」
俺は自分の手をみる。俺の特典はなんだ?
財布と本を取り返した力、仮面が笑う悪夢。
「まさか…」
と、考えているとトントン、と扉が叩かれた。
「あっ、はい」
と言ってしまって気づいた。ここは俺の部屋じゃない。アルムと言う少女の部屋だ。勝手に許可を出していいのか?
「やあ、こんちは」
入って来たのはおばあちゃん。もうそうとしか表現できない。
「怪我はどうだい?」
柔らかな笑顔で聞いてくる。少し細い顔に浮かぶ笑顔は安心感を与えてくれる。
「あなたは?」
質問に質問で返してしまった。
「アタシかい?」
笑顔を浮かべたままおばあちゃんは答える。
「ハナエっていうんさ、アルムのばあちゃん。よろしく」
「よろしくお願いいたします」
つい、敬語を使ってしまう。
「あれ?アルムちゃんは?」
「アルムなら出かけているよ」
そう言ってハナエさんは「どっこいしょ」と椅子に座った。
「しばらくここにいるんだろう?怪我が治るまでゆっくりしていきなよ」
「はあ、ありがとうございます」
すごくいい人じゃないか、と俺は思った。普通なら少なからずいい顔をしないものだがこの人からはそれを感じない。アルムはこの人になんて言っているのだろうか。
「あの子の部屋、本が多いだろう?親の方針で学校に行かずに勉強していたんだよ」
ハナエさんは部屋を見渡した。確かに、俺が読んでいた歴史書もそうだがこの部屋には一目見ただけでは何の本か分からないタイトルのついた本が多い。
「どうしてですか?」
俺は聞いた。怪我をしたとはいえ見ず知らずの男を自分の部屋に泊めようなんて考える人はどんな環境で育つのか。知りたくなった。
「あぁ、それはね―――」
「そんなの聞いてどうするの?」
被せるように声がした。ドアの方を見るとアルムが立っていた。髪は乱れていて、靴下は泥っぽい汚れがついていた。買い物袋を両手に提げて俺を見ていた。その目はとても冷たい、俺を射るような目だった。
「あぁ、アルムおかえりなさい」
ハナエさんは笑顔で言う。
「おばあちゃん、無理しちゃダメよ」
と、アルムは言った。その目にはさっきの冷たさは無く、柔らかい表情をしていた。
「さてと、アタシも手伝おうかね」
ハナエさんは「どっこいしょ」と立ち上がろうとした。その時、ふらっとハナエさんがよろけた。
「危ない!」
俺はすぐに駆け寄ってハナエさんを支えた。
「大丈夫ですか?」
俺は聞いた。
「大丈夫、大丈夫」
ハナエさんは言ったが、顔色が少し悪い。
「おばあちゃん、無理するからよ。部屋で休んでいるべきよ」
アルムはそう言ってハナエさんを支え、俺の隣の部屋に連れて行こうとした。
「カイさん、ご飯は持って行くから部屋にいて」
アルムは言った。
「海でいいよ、岸本海」
俺は言った。
「わかった」
と言ってアルムは部屋を出て行った。
俺はふと気になって視線を下に向けた。そこでは買い物袋がわずかに床から5センチほど浮かんでいた。俺はつい呟いた。
「…すごいな」
俺は改めて、ここが異世界であることを思い出した。
「これが魔法か」
喜べお前等ヒロインロリだぞ!(煽り+偏見+ネタ)
春休み中に1ー1を終わらせるつもりです