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尖塔館の殺人  作者:
尖塔館の殺人・解決編
21/24

そして犯人の告発

「――簡単です、首を絞めると首に索条痕が残ります。そしてこの角度を見れば、加害者の身長が被害者の身長に比してどれくらいのものかが一目瞭然となります。

 そして犯人は、自分が塔野さんの身長と比べてどれくらいなのか知られたくはなかった。しかし死体を発見したものが少しでも首を見れば、そこにくっきりと残った痕が自分の身長を何よりも雄弁に語ることでしょう。一番いいのは死体を処分してしまうことですが、そのとき外では雨が降っていました。火がつけられないので完全に死体を処理することはできないし、何より自分が濡れてしまいます。ずぶ濡れになった服は隠しておけるにせよ、自室にたどり着くまでに廊下などに水が落ちるのは避けられません。拭けばいいと思うかもしれませんが、誰がいつ出てくるかもしれない廊下でそんなことをするのはリスクが高すぎます。よって犯人は、次善の策――被害者の首を、索条痕に沿って切断することを考え付きました。これなら多少時間はかかりますが、全て塔の上の一室で行うことができて人目につきません。

 では、ここでいよいよ切断面に注目してみましょう。

 あの切断面はまっすぐではなく、少し斜めになっていました。さらに言うと、腹側から背側に切り下ろす形です。ということは、背後から塔野さんの首に紐を掛けた犯人は紐を引き下ろしたということになり、そうなると犯人の身長は塔野さんより低いということになります」

 ここまで一気に話し切った白音さんは、ふう、と一つ溜息をついた。

 ただ白音さんの話を聞くだけというのも芸がないので、僕も少し考えてみる。塔野さんは男性としてはかなり身長が低かった。男性陣はみな塔野さんより高かったし、最上さんも少しばかり高かったはずだ。ということは犯人は……?

 しかしその最上さんが、ここでまたしても手を挙げた。

「待った待った。なんだかそろそろ犯人の名前を言おうとしてるような雰囲気だけど、密室の問題はどうなったんだい? まさか忘れたとは言わせないよ、塔野さんの部屋につながる唯一のルートには私と比嘉さんの監視の目が光ってたってこと」

「ああ、そういえばそんな問題もありましたね。だからこういう話は苦手なんです……すべてのことに言及しなきゃいけないから」

 うんざりした顔で言う白音さん。

「そう、密室でしたね。

 状況を整理しましょう――塔野さんの部屋へ行くには、大きく分けて二つのルートがあります。そのうちの一つである南通路は、これは通行止めになっていたので除外してもいいでしょう。

 残るもう一つは、北通路を通って西館を経由するルートです。しかしこのルート、西館の入り口部分に当たる階段は誰も通らなかったことが比嘉さんと最上さんの証言にて確認されました。

 しかし、ルートはそれだけではなかったはずです。ある例外――桐生さんが、一度東館から外へ出て西館の玄関から入っています」

「しかし、彼はどちらの玄関もすぐ鍵を閉めたはずだよ。まさか桐生さんが犯人とでも?」

「実はその可能性も考慮していました。しかし、先程の首切りの問題の解からこれは間違いであることが分かります。なぜなら桐生さんは、塔野さんより明らかに背が高かったのですから」

 では、やはり誰にも犯行は不可能だったということになるではないか。ちかってもいいが、誰かが階段を通ったなら僕と最上さんが気づかなかったはずがない。

「ただ、その玄関ルートを通ったのは桐生さんだけではありません。正確に言うなれば、桐生さんと、彼が運んでいた荷物入りのコンテナです。

 桐生さん以外で西館と東館を行き来したのは、あのコンテナだけなんですよ。ということは、あのコンテナに犯人が潜んでいたと考えるしかありません。かなり大きなものでしたし、人一人くらいは余裕で入ったことでしょう」

 しかしそれだと、問題がある。

「白音さん。そうなると、あのコンテナの重さはもともとの内容物と犯人の体重を足し合わせたものになるはずですよ。さすがに重すぎて桐生さんが気づくのでは」

「それなら、問題ありません。重いのなら、軽くすればいい――犯人の体重はどうやったって減らすことができませんから、減らすのはもともとコンテナに入っていた物の方です。桐生さんがコンテナから離れている隙に中身を全部出して、犯人はその中に滑り込んだんです」

「でも、それだとつじつまが合いませんよ。次の日にコンテナの中身を改めたとき、桐生さんは中身が減っているなどとは一言も」

「だから、戻したんですよ。比嘉さんと最上さんが図書室から引き上げ、監視がなくなった時点で。北通路を悠々と通って、そっくりそのまますべての内容物をコンテナケースに戻したんです。

 死体の切断にノコギリを使ったのも、コンテナケースに忍び込むときに一度中身を見たからでしょうね。自分が入る時にノコギリが入ったままだと危ないから、という理由でコンテナからは出していたのでしょう、それが使えるようになるまでは少し待たなければいけませんでしたが。殺害時刻と首が切断された時刻が少し離れていたのは、それが理由だと思われます」

 ……これで、全てにつじつまが合った。これで残るは、犯人の告発のみ。

 白音さんの口がゆっくりと開く。それは、これから告発される犯人にとっては死刑宣告にも等しかっただろう。


「つまり、犯人は緋桂(ひかつら)(ひいらぎ)さん。あなたです」

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