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尖塔館の殺人  作者:
尖塔館の殺人・解決編
19/24

第三の殺人において

 どことなく空気の淀んでいるような食堂に、現在この館にいる人間が全員揃っていた。なぜかと言えば、十分ほど前に白音さんが「食堂に全員を集めてください」と突然言ったので僕が部屋を回って来てもらったのである。理由くらい教えてくれてもいいんじゃないかと思う。

「さて、突然ですが皆さん。犯人が分かりました」

 白音さんが、いつもと全く変わらぬあっけらかんとした表情で言い放つ。違うところといえば、その顔――いつもつけている眼帯が、いまは外されているというところだろうか。眼帯付きの顔ばかり見慣れているためなかなか変な気分だ。眼帯を外した右目にも特に変なところは見受けられないので、どうしていつもは眼帯をしているのだろうかと少し疑問に思った。

 最上さんは、腕を組んで椅子に座り興味津々といった様子だ。対照的に緋桂さんは、何を考えているか全く読めない無表情で白音さんを眺めている。

「しかし、私こういうの実は苦手なんですよね。きちんと筋道立てて話さなきゃいけないから……どこから話したものかな。とりあえず、第三の殺人から遡っていきましょうか」

 これは、白音さんの好きな推理小説でいうところの『解決編』という部分に当たるのかもしれないな、と思った。


「まず一番不審な点――これは一度比嘉さんにも話したことなんですが――凶器がナイフであったことです。

 ナイフというのは刺せば充分に致命傷を負わせることができますし、よしんばすぐに死ななくとも複数箇所刺して被害者を放置しておくだけで自然に失血死してくれるため殺人には非常に便利な道具です。第三の殺人では腹部に刺さっていましたが、ではなぜ犯人はこのナイフを第一、第二の殺人で使わなかったのか? という疑問を呈したいわけですね私は。

 一つ目、使えたけどあえて使わなかったという可能性。

 例えば実は矢針さんが犯人の親の仇で、ナイフはその親の形見だから矢針さんを殺すときまで温存していた――というのも考えられないではありませんが、だとすればそんなものを現場に残していくのは不自然です。

 では二つ目、最初の二つの殺人では何らかの理由で使えなかった可能性。

 しかしナイフというものは小ぶりで、使うのに物理的な制約が生じるという状況はほぼありません。日本刀なら室内で振り回すのには向きませんが、ナイフならそんなことはありませんし。また相手が、ナイフを通さないような服を着ていたという可能性も無しです。現に二人とも頭を殴られていましたから、少なくとも頭部が無防備だったことに変わりはありませんし。

 ならば、こう考えることができます――犯人は、第一、第二の殺人の時点ではあのナイフを所有していなかったのだと」

「第二の殺人の後、犯人が山を下りてナイフを調達してきたのだとでもいうのかい? 道は土砂で通れないよ」

 やはり、どこか楽しそうに言う最上さん。この人は真面目に反論したいんじゃなく、いついかなる時でも状況を楽しんでるのだということが分かりかけてきた。

「まさか。ナイフは最初からこの館にあったんです。より詳しく言うと――証拠はありませんが――おそらくあれはもともと矢針さんの持ち物です」


 さすがにここでは最上さんも茶々を挟まなかった。真面目な顔で、白音さんの話を聞いている。

「殺人が連続したせいで、私たちは第一、第二の殺人の犯人がイコール第三の殺人の加害者だと思っていました。違うんです――第三の殺人においては、当初は犯人が被害者になる予定だったんです。

 具体的には、朝の四時から五時ごろ、まず矢針さんがナイフを持って犯人に襲い掛かります。しかし矢針さんはお世辞にも運動神経が良いとは言えません。おそらく犯人の方が体を動かし慣れていたのでしょう、矢針さんは返り討ちにあってしまいました。矢針さんを被害者としてみた場合、腹部にナイフが刺さっていたのが不思議だったのですが、そういう状況でしたら正面から刺されてもおかしくはありません。おおかた犯人が向かってきた矢針さんからナイフを奪い、そのまま正面から突き刺したのでしょう」

 ここで、今まで黙っていた緋桂さんが手を挙げた。

「何でしょう、緋桂さん」

「矢針さんは、なぜそんなことを? もしかして、彼が第一及び第二の殺人の犯人だった、とかいう話ですか?」

 なるほど、それならつじつまが合う。……と思ったのだが、白音さんは、

「いいえ、そうではありません」

 と即座に否定した。

「まぁ理由は後述することにします。私にとってもあまり愉快な話ではありませんし」

 珍しく顔を曇らせる白音さん。どういう意味だろうか。

 しかし次の瞬間、いつものお気楽な表情に戻って、

「ではお次、第二の殺人へと参りましょう!」

 と言った。

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