間奏
東京都内の、大通りからは少し離れたところにあるカフェの店内。大きめのテーブルを一つ占領して、二人の女性が座っていた。
一人は紺色の制服を着ているので高校生のようだが、それにしては身長が低い。童顔なのも相まって、制服を着ていなければ小学生と間違われてもおかしくなさそうだ。テーブルの上に置かれた丈夫そうなノートパソコンの画面をじっと見ている。
もう一人の女性は、座っているので分かりにくいが少女よりは少し背が高いようだ。こちらは視線をノートパソコンには落とさず、コーヒーを至極おいしそうに飲んでいる。
と、背の低い少女がおもむろにノートパソコンをもう一人の女性の方へ向ける。女性が受け取り、いくつかの操作をして蓋を閉じたのでどうやらノートパソコンは彼女の所有物のようだ。
「どうでしたか、白音さん」
ノートパソコンを足下の鞄にしまいつつ、目の前の少女に尋ねる女性。少女――白音紅音は、「さすがはベテラン作家、緋桂柊といったところですか。おおむね事実に沿っていますし、脚色も上手いあんばいでなされていると思います。私がいなかった時の比嘉さんの行動の真偽までは、さすがにわかりかねますが」と答えた。
「まさか」
苦笑する女性――緋桂柊。
「この小説を書くにあたって、私はあなたを通じて比嘉警視に連絡を取りました。彼を視点にするのが適当だろうと思ったからですが……驚いたことに詳細な記録が送られてきました。私は会って大まかな話を聞くだけでもよかったのに」
今度は白音が苦笑する番だった。
「どうやらすっかり看破されてるみたいで」
「白音さんほどではないにせよ、私だってミステリ作家を何年もやってます。名探偵の真似事くらいはできますよ。……だいたいね、警察官がそうそう簡単に情報を漏らしてくれるはずがないでしょう。あの記録、書いたのも送ってきたのもあなたですよね」
「いや、ご明察です」
ふふふ、と笑う白音。そこで表情を一転させ、
「しかし、私が今日ここへ来たのは、あなたから『原稿が完成したのでチェックしてほしい』と電話があったからです。なのに」
足下の、ノートパソコンが入ったカバンを指さす。
「先程見せていただいた原稿には、問題編に相当する部分までしか書かれていなかったように見受けられましたが」
「その通りです」
首肯する緋桂。
「古き良き本格推理小説なら、この後に『読者への挑戦状』でもはさみこまれるのでしょうね――もちろん、解決編に相当する部分もすでに書き上げています。ただ、ここはやはり名探偵の口から解決編を聞きたいと思うのは、ミステリ好きとして当然のことでしょう」
「その気持ちは分からないでもありません。――少しお時間を頂きますが、よろしいですか?」
「もちろん。そのために、今日は一日開けてあります」
「そうですか」
椅子に深く腰掛ける白音。一度大きく深呼吸して、そして口を開く。
「――さて」




