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尖塔館の殺人  作者:
尖塔館の殺人
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第三の殺人

「今日は矢針さんですか……」

 自分でも、げんなりした声が出たのが分かった。

 理由は簡単――目の前の廊下に、矢針さんが倒れているからだ。

 仰向けに倒れていて、その腹部には細いナイフの柄が突き立っている。それが栓の代わりになっているのか、出血はさほどしていない。

「白音さん、どう思います?」

 隣にしゃがんで、矢針さんの腕を触って検分している白音さんに声をかける。しかし白音さんは硬い声で、

「……違和感があります」

 とだけ短く言った。

「違和感、とは?」

 白音さんはしばらく逡巡していたが、やがて、

「例えば、このナイフ」

 と話し始めた。

「最初の殺人――塔野さんの場合は、犯人はその場にあったライトスタンドで殴り、その後階下から失敬してきたのこぎりで首を切断しています。

 また第二の殺人――桐生さんの場合は、これは凶器が不明ですが何らかの鈍器であることは間違いありません」

 ここまで言えばあなたでもわかるでしょう、というような目で見てくる白音さん。や、すみませんわからないんですが。

「ダメダメですねぇ……つまり、犯人はなぜ第一及び第二の殺人でこのナイフを使わなかったのか、と私は言いたいのですよ」

「あ……」

 目から鱗が落ちたような気がした。

 確かにそうだ、殴っただけでは気絶はしても死なない場合がある。その点ナイフなら確実だ、刺して抜くだけで即死はしなくてもいずれ出血多量で死んでしまう。

 何より、ナイフを持っているのにわざわざそれを使わないで温存しておく理由というのが思いつかない。犯人の父親が矢針さんに殺されてその恨みを晴らすため形見のナイフで、というのなら話は別だが。

「死亡してからそれほど時間は経っていません。一、二時間といったところですか……今朝の四時から五時というわけですね、殺人を犯すには少し危ない時間帯のような気もしますが。

 それと私的には、もう一つ不審な点があるんです」

「何です?」

「ナイフの刺さっている位置ですよ」

 腹が何かまずいのだろうか。

 はぁ、とため息をつく白音さん。

「ここはまっすぐな廊下です。向こうからナイフを持った怖い人が走ってきた場合、あなたはどうしますか?」

「ナイフを持った手を固めて、現行犯で逮捕します」

「私が悪かったです……一般人視点でお願いできますか」

 あきれられてしまった。マニュアル通りなのに。

「……まあ逃げるんじゃないですかね」

「でしょう? だとしたら、どうして腹部にナイフが?」

 ……ああ。

 そういうことか。背を向けて逃げれば、腹にナイフが刺さるのはおかしい、と。

「とまあ、二つほど不可解な点を挙げてはみたのですが……たぶんここ、ですね」

「ここ、というのは」

「この二点、ああいや、首切りの動機の三点も併せて考えれば、犯人が分かるような気がするんですよ」

「本当ですか!」

「あくまで予想ですけれど、ね」

 そう言って、冷たくなっている矢針さんを廊下に放置したまま白音さんは立ち上がった。階段へ向かおうとするが、そこで振り向き、

「ああ、それともう一つ。まだ何もわかってない私ですが、一つだけ断言できることがあります」

 何だろう。

「殺人は、もうこれ以上起こらないということですよ。だってあと一人でも殺してしまえば、私たちには犯人が誰だか推理するまでもなく分かってしまうわけですからね」

 ……そうか。

 七人の人間がいて、三人減った。まだまだ容疑者は多いと思っていたけれど、かなり絞り込めているわけだ。

「……白音さん。こういう言い方はあまりしたくないんですが、犯人は緋桂さんか最上さんのどちらかなわけですよね? 僕と白音さんで手分けして、それぞれに鎌をかけてみるというのはどうですか。上手くいくかもしれませんよ」

 しばらく考え込んでいた白音さんだったが、

「いや、それは駄目ですね。それでは私も向こうも納得しないでしょう」

 とだけ言った。


 しかしその数時間後。

 彼女は、食堂に残った全員を集めてこう言うのであった。

「犯人が、分かりました」

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