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Moon Clan  作者: 咲夜 繚
6/8

捜3



「それで、目が覚めたら、神鏡と女は居なくなっていた、と?」


「あんな色っぽい美人が盗みをするなんて、思ってもみなかった。」


 首を絞められ、殺されかけたと言うのに、

その時の唇の感触でも思い出したのか、トロンとした目つきになる総司。


 大切な御神体を見せて欲しいと言われ、簡単に持ち出し、揚句の果てに奪われたと言う。

 神社にとって奉る御神体が、どれほど大事な物か分からないのかと美夜は呆れ果てた目で見る。

同じように、恭一も呆れた顔で総司を見ながら、


「バカが、女に頼まれりゃなんでも、ほいほい聞いてやるからだ。」


「うるさい!お前に言われたく無ぇよ!!京美ミヤビさんの言う事なら、何だって--」


「それとこれとは、話しが違うだろうが!」


 京美さんと聞いて、それまで冷静に話を聞いていた恭一が、総司と同じ位にテンションを上げ、

違う、違わないと、美夜が見ているのも無視して、言い合いをする二人。


「犯人は分かってるんだ、だったら話は早いだろう?その女を捜せばいい。」


「それが…店のマスターも初めて来た客で、何も分からないって言うし、

知り合いのホステスに聞いて回っても、知らないって言われて」


「ホステスって、総司お前、玄人にも手ぇ出してたのか?!」


恭一が滅多に見せない驚いた顔で、話の腰を折る。


「手なんか出して無い!お話相手になって差し上げてるだけだ!!」


「いいからその盗人女の特徴を話してみろ!」


 進まない話に苛立ち、バンとテーブルを平手で打ちつけ、美夜は二人の会話に割って入ると、

テーブルを殴った美夜の迫力にビビリ、慌てて総司は女の容姿を話し始めた。


「切れ長の目に、髪はロングで金髪、そりゃもう非の打ち所の無いボディラインで…」


 思い出す総司の顔は、でろっとやに下がり、

取り巻きの女の子達が見たら、ドン引きするだろう。

 男なら当り前の反応だが、あからさまな態度は、一応女である美夜の感情を逆撫でするだけで、


「他には無いのか特徴は!何処にでも居るぞ、それくらいの女!!」


「そんな事言われても…そう言えば、変わった香りの香水使ってたなぁ」


「どんな感じのだ?」


「俺の周りの女の子では、嗅いだことの無い香りだった。

甘い香りなんだけど、若い子が着けるフルーティーな物じゃなくて、

こう…大人の香りって感じだったなぁ」



    甘い香り フルーティーじゃない…



龍涎香りゅうぜんこう


「なんだそれ、坊主御用達か?」


「香って付けば坊主か?アンバーグリスって言って、香水の元みたいなものだ。」


 おしゃれや流行に疎そうなヤツだとは思っていたが、女性が好き好んで抹香臭い香りを着けるはず無いだろうと、美夜の恭一を見る印象は、また悪くなった。


「それで、引き受けて貰えるのかな?」


「月輪が盗まれたんだ、黙って居る訳にいかないからな、仕方ない引き受ける。

依頼料は成功報酬として貰う、探し出せなかった場合は要らない。」


「成功報酬って、前金で手数料とか、捜査費用とかは取らないと?」


 ちょっと不思議そうに美夜を見る総司だが、一方の恭一は、


「それだけ自信が有るって事だろう…だから成功報酬だけなんだよな?」


「ふふん、そう言う事かな、これまで依頼を失敗した事は無いからな。」


 身を乗り出して話を聞いていた美夜は、ソファの背もたれに軽く反り返るように座りなおし、天井を見上げた。


「良かった、引き受けてもらえて。」


「取戻したら連絡を入れる、連絡先を教えていけ。」


「スマホの番号でいいかな?」


「構わない。」


「じゃぁスマホに送信するから。」


「無い」


「えっ?なんて・・・」


 一瞬の間を置いてスッパリと答えが返えされた。


「持って無い」


「えええっ!?そんな、今時スマホ持って無いって。」


「キライなんだ、何処に居ても連絡が来るってのが。それにそんな物無くても生活出来るからな。

ほら番号言えよ、最初の三桁はいいから。」


「っああ…イイワニイサンハヤクシテ」


「はぁ?」


「だから、良いわ、兄さん、早くシテ、11823894。」


「最初からそう言え!」


そう突っ込んだあと美夜は、ブツブツと口の中で数字を繰り返し、


「依頼は引き受けた、だから悪いが、もう引き取ってくれないか。」


 眠そうな顔で大アクビをし、そのアクビで目じりに滲んできた涙をグシグシと人差し指で擦りながら、二人に帰宅を即した。


「分かりました、今日はこれで…」


「ああ、見つかったら連絡する。」


 返事をした美夜は、そのままソファに寄りかかり、二人を見送る事もせず寝息を立て始めた。


「寝ちまったのか?図太てぇのか無神経なのか…

おい総司帰るぞ。」


「っああ、そうだな、それにしても、カワイイ寝顔だ。」


寝入った美夜を見て、呆れる者、見惚れる者、

それぞれの感想を残し、二人は部屋を出て館を後にした。


 門を出た途端、夏のムッとした空気に触れ、館に入った時と逆の感覚を憶える。

やはり門から中は、違う空間としか思えない。


 恭一は、思わず振り返って見るが、やはり造りが古い意外は何処も変わった所は感じられない。

 そんな空気の変化を感じていないのか、一人ニヤけている総司に、



「あんなヤツに頼んで大丈夫なのか?偉そうな口利いてたけどよ。」


「大丈夫さ。噂に聞いてた感じとは大分違ったけど、信頼出来る。」


「どっから来るんだよ、その自信は。」


「あ~んなに素敵なレディだぜ?

仕事もバッチリできるに決まってるじゃないか、俺の目に狂いは無い!!」


 拳をグッと握ってガッツポーズを作る総司、


「自分好みの女だからって、そこまで見境無くなるか?

こんなデケェ屋敷に、一人で住んでるってだけでも怪しいのに、そんなに簡単に信用しちまって良いのか?」


「そんなに心配なら、恭一も一緒に探してくれよ。」



 美夜が、「ふりの客」だと言うのに依頼を受けた「月輪盗難」

それがどれほどの事か、この時点での二人には分かる筈も無かった。

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