プロローグ
人の血を啜り 闇夜を跋扈する 不死なるもの
月下の王にして 血を捧げた者を下僕とし
太陽の下をも恐怖で支配する
この世で 最も忌み嫌われる血
月に祈りを捧げ 月よりの使者として崇められ
彼の大国の 皇帝すらも捜し求め
臣下を東の果てへと旅立たせた
人で有る誰もが欲する 高潔の血
この世界で 最も太陽に嫌われた血と
最も月に愛された血を持つ者
その血の意味を知るモノは…
✝
囚われていた子供は見つけた
その部屋に侵入するのは 目玉焼きを作るみたいに簡単だった
だが誰の目にとまる事無く連れ出すのは
子供一人を護り通すと言うことは
こんなにも難しい事だとは…
無傷で奪還の約束 そのために多量の血を流してしまった
薄れる意識の中で 理性が本性に飲み込まれて行く
身体の奥深く閉じ込めた血が
ビーカーの水にインクを垂らしたようにジワリと広がり 黒い力が満ちて来る
血色に紅く光る瞳
口元にチラリと覗く牙
誰もが恐れる本性が現れる
「いいよ…」
震えながら差し出された手
蒼白の顔に天使の微笑み
小さな宗薫は 美夜の目に脅えてはいたものの 薄く笑顔さえ浮かべている
それは 美夜が何者かを理解した者の笑みだった