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第5話〜チルドと猫〜

 図書室に着いた俺達は扉を静かに少し開いてこっそりと中を覗き見た。なぜ、こっそり覗き見るのかと言うと、実はつい最近雨が降って外で遊べない日があったのだが、その時に図書室でかくれんぼして遊んでいて本棚の本を大量に床に落としてしまったことがあったんだ。ぬれた靴で図書室内を走り回っていたため落ちた本は靴についた泥などで汚れ、本を台無しにして図書室長にすごい剣幕で怒られたことがあったのだ。今、図書室長に見つかるのは非常にまずい。

「どうだ、奴はいるか?」

 俺はひそひそとアリスに耳打ちすると、アリスは唸りながら「いないみたいだね」とつぶやく。

 そんな馬鹿な。昼休みは五分ほど前に始まったばかりだぞ?

「う〜ん、今日は別のところなのかもしれないね」

「どうする?校庭に戻ってみんなとドッジでもするか?」

 俺の提案にアリスは腕組みしながら唸った。

「今日は止めとこう。今からチルド君を探して徹底抗戦するんだから」

 やはり狙いはそっちか。

「でもさ、チルドはあの通り結構強情だ。そうそう簡単に心を開いてくれるとは思えないんだけど」

「あー!カズ君までそんなこというの?それじゃ他の子と変わらないよぉ」

 アリスは俺の顔の前にずいっと人差し指を持ってきた。

「い〜い、これはあたし達に課せられた使命なの!私達がやらなくちゃ駄目なのよ!」

 少し屁理屈になっているような気もするが俺は黙ってアリスの演説を聞く。

「それに少しくらい強情なほうがこっちのやる気が増すってもんよ。強情結構!だからこそ、やらなくちゃ女が廃るわ!」

「俺は男なんだけど…」

「何か言った!?」

「いえ…」

 駄目だ、これ以上こいつに反論はできそうもない。それに、自分で言っておいてなんだが俺も諦める気持ちはまだそんなに強くなかった。

「わかった、付き合うよ」

「え、いいの?」

 俺がそう言うと思っていなかったのか、アリスは戸惑ったように口に手を当てた。

「なんだそりゃ?別に断る理由はないんだろ」

「う、うん。ないけど……」

 アリスの顔から戸惑いの表情は消えない。

「ほんとにいいの?」

「ほんとにいいよ。一人より二人で探したほうが効率がいいだろ?それにだな……」

 俺はわざとらしく咳払いをした。

「上司に格好良く演説をしていまさらこの仕打ちはどうかと思うがね、アリス軍曹」

 俺はにっと笑った。アリスもすぐに嬉しそうに笑い「ハイであります、大佐」と合わせた。




 かくしてチルド捜索が始まったわけだが、たかだか小学校の敷地内だ。そう遠くへは逃げられまい。俺達はあいつがいきそうな、つまりなるべく人気のない場所を中心に捜索を開始した。

 案の定、チルドは校舎の裏側の隅で猫の相手なんぞしていた。

「なんだ、君達か」

 チルドは俺達の存在に気づくと、猫を抱きながらこっちに近づいてきた。みたところまだ子猫のようだ。チルドの足元にはまだ数匹の子供と母親猫がいた。

「抱く?」

 チルドは俺たちに向かって言った。

「いいの?」

 アリスの目がきらきらと輝いている。駄目だこりゃ、完全に猫に魅入られたな。まったく女ってのはどうしてこんな小動物を可愛がるんだ……

「君も、抱く?」

 気がつけばチルドは俺の目の前にも子猫を抱いてそんなことを聞いてきた。断ることはできたんだが、場の雰囲気とアリスに勧められたことが重なって俺は子猫を抱く羽目になった。

「可愛いねぇ」

 アリスは自分の手の中で気持ちよさそうにしている子猫を見つめながら待ったりとした目をしている。確かに可愛いけどさ。今、俺達のすべきことではないような気がるんだが。

「カズ、猫、気に入らない?」

 初めてチルドから話しかけてきた。表面からはわかりづらかったがきっと無愛想な顔をしている俺が心配になったのだろう。

「いや、そんなことはないけど……」

 俺はそう言いながら指を動かして子猫をじゃれさせる。

「よかった…」

 チルドはつぶやくと、頬の筋肉が緩まり優しい顔になった。

 結局、この日もチルド引きこもり防止作戦は失敗に終わったのだった。しかし、作戦は失敗だったものの、俺達はチルドという少年の秘めているものについてじっくり体感することができた。こいつもまた、他者を惹きつける力があることを知ることができた。それだけでも十分だった。




 下校時間になり、みんなが教室からいなくなった後俺とアリスは例によって会議を開いていた。

「私達が強引過ぎたかな」

「そうだなぁ。もし、あいつをドッジに誘っていたら猫も可哀想かもしれないな」

「でも、あの猫達チルド君にとっても懐いていたよね」

 アリスが昼休みのことを思い出しながら目をきらきらさせている。

「そうだな。俺さ、あいつにも誰かを惹きつける力があると思うんだ」

「それは思った。ただ、それが人じゃないだけで持っているものはやっぱり私と同じなんだね」

「やっぱりって?」

「あ、え〜となんでもないよ。忘れて」

 アリスはそう言うと、「ばいば〜い」と手を振りながら教室を去っていった。一体なんだというのだろうか。

 まぁ、何はともあれチルドの一面を知ることができた今日はとっても収穫だった。今日はアリスと会議をしていたから無理だったけど明日は一緒に帰ろうって誘ってみることにしよう。


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