第30話〜卒業証書授与〜
卒業式は体育館で行われた。
今でこそ、空調設備が整った体育館だからいいが、昔はそんなものはなく、皆寒い思いをしてきたらしい。それにしてもあいかわらず変わらないのが校長の無駄話。中学校に上がっても規則正しくだとか、目標を持ってだとか、いつも終業式に言っていることとさほど変わらないような気がする。ただ、その熱のこめ方がいつもと若干違うだけで。どうしてこの制度まで伝統で片付けるのだろう。この無駄話すらなかったら卒業式らしく晴れやかに学校をされるというのに。学校の校長だけは何年経っても進歩がなかったんだな、きっと。
「それでは続きまして、卒業証書授与に移ります」
俺達の担任が凛々しい顔で俺達のほうを向く。
「一番、アリス・アストグレーさん」
「はい!」
アリスの元気の良い返事は始業式の日のことを思い出させた。
そう、自己紹介で、担任に名前を呼ばれた時もこいつは元気で明るい返事をしていたっけ。それでいきなり、「みんな元気か!」って叫んだときは面白かったな。あの時は変わった奴だと思っていたけど、これがあいつの長所でもあった。誰とでもすぐに打ち解けることのできる明るさ、優しさを兼ね備えた女の子。それは、天使が元々から持っている慈愛の優しさというよりも、限りなく人間の女の子が持っている優しさに近かった。
「十九番、チルド・ニルソン君」
「は〜い…」
ドドド――
俺のクラスだけ、その場でこけたような気がした。まったく、こいつは最後までこんな腑抜けた返事をしやがる。でも、そこがこいつの見所でもあるからな。
チルド、こいつも自己紹介の時のエピソードがあったな。確か、担任に名前を呼ばれても返事がなくて、よく見たら目を開けて寝てたんだよな。どこのクラスにも必ずああいうマイペースな野郎はいるから、最初は気にもとめていなかったが、思えばあいつも人に好かれやすい奴だった。最初は猫をじゃれているところを俺とアリスが発見し、こいつにも少なからず何かを惹きつける魅力があるものと思った。俺とアリスの説得で――説得なんかしたっけか?――クラスに少しずつ馴染んでいった。あまり自分から話さない無口な奴だけど、あいつの数少ない表情を俺は好きだった。
「俺は……好きだったぞ」
「お、おいカズ、大丈夫か?」
俺の隣に座っていた奴が心配して小声で俺に話しかけてきた。俺の目からはいつの間にかまた涙が零れ落ちていた。そして……
「三十一番、渡辺和也君」
「はい」
そうだ、もう考えるのはやめよう。俺がこんな顔じゃ、あいつらだって満足してもとの世界に帰ることなんてできやしない。
こいつらの友人であったことを誇りに思おう。
俺は体育館の床を一歩一歩踏みしめながら壇上へと向かう。途中、チルドやアリスが座っている席の横を通った。
彼らはきっと俺のほうを見ただろう。
本当なら彼らに目配せの一つでもしてやりたかったが、俺は心の中だけで留めた。




