第29話〜時は流れて〜
今日はいよいよ長かった小学校生活の最後、卒業式だ。
桜のつぼみがぽつぽつと目立つようになる中、俺達は最後の通学路をチルドとアリスと一緒に歩いていた。
「今日で小学校生活も終わりかぁ。長かったなぁ」
「カズ君、普通短いなぁって言わない?」
「カズ、感覚変」
「うぉい、たった一言で変人扱いかい」
俺達はいつものように何気ない話をしながらゆっくりと通学路を歩いていく。
「なぁ、お前らほんとに今日帰ってしまうのか?」
俺は答えをわかっていて二人に聞いた。
「カズ君……」
「カズ……」
二人は頷く代わりに力なく俺の名前をつぶやくだけだった。
「なんかさ、実感が湧かないんだ。お前らと去年初めて会ったなんてさ。なんだか、もうずっと昔から友達だったような気がしてならないんだ」
「それはあたし達も同じだよ、カズ君」
アリスが寂しげにつぶやいた。
「もっと早くから会っておきたかったな」
「カズ、言っていることがさっきから死離滅裂だよ」
「うっさい!」
俺はもう耐えきれなくなってやつ当たりのように叫んだ。
「わかっている、わかっているよ!俺だって、何を言っているかわからないよ!だけど、だけど……」
俺の目から涙が溢れ、頬を伝う。
「やっぱり嫌なんだよ、お前らと今日でお別れなんてさぁ……」
くそ、止まれ!
止まれよ、涙!
今日は絶対にこいつらの前では泣かないって決めていただろうが!
しかし涙を止めようとすればするほど、俺の目から滝のように大粒の涙が落ちていく。
どのくらいの時間、そうして泣いていただろうか。もうすぐ、卒業式が始まってしまうというのになんという醜態だ。
「二人とも、ごめ…んよ。もうすぐ……卒業式が…始まっちまう。人間界の最後の日……なのに」
俺の言葉は半分嗚咽が混じっていて良く聞き取れなかったかもしれない。しかし、二人は何も言わず小さく横に首を振るだけだった。
俺はこの時、初めて二人に甘えた。アリスとチルドは俺が完全に泣き止むまで何も言わず、そばにいてくれた。近くにあった時計はもうすぐ九時半になろうとしている。
三人とも三十分以上もの遅刻だな。
「ありがとう、二人とも。そろそろ行こうぜ」
俺は最後にティッシュで鼻をひとかみして立ち上がった。
「うん」
「行こう」
こうして俺達は一時間近く遅れて学校にたどり着いた。担任の先生には怒られることはなかったが、代わりに隣のクラスの先生に怒られた。どうやら、うちの担任は俺達が心配で寝込んでしまっていたらしい。俺達が来るなり、両腕を大きく開いて俺達を抱いた。この年になるとそういうのって結構恥ずかしいものだが、今日だけはそんなことはなかった。




