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第28話〜愛の形〜

 大変なことになったな……。

 どうして子供の俺がこんな大人の話につきあわないといけないのだろう。だいたい、結婚の話なんて俺にはまだ早すぎだ。にもかかわらず、俺の横にいるこのナナルとかいう悪魔のおばさん――もといお姉さん――は容赦ない。

だいたい、俺の一言でチルド達が変わってくれるとは思わないけどなぁ。

『………』

 その場の全員の視線が一斉に俺に集まる。

 あ〜あ、なんでいい大人が――もとい天使と悪魔が――こんな子供の言う一言にこんなに真剣になれるんだろう。普通だったら笑って済ます場面だろう、ここ。

『………』

 そんなことを愚痴っている場合じゃないか。とりあえず何か言わないと……。

「えっとさ、子供の俺に許婚とか恋愛ってのはよくわからないけど、二人がそのままを望むって言ったらそれで済むんじゃない?」

「駄目よ、そんなの!」

「お前、今のナナルの話をちゃんと聞いていたのか?我々にはあまり時間がないのだ。もたもたしておったらまた戦争に……」

「だったらその時はさ!」

 猛反対するメル姉さんとドライブの言葉を遮り、俺は大声で言った。

「その時は、こいつらを戦前に引き出して、二人に言わせりゃいいんじゃないの?『こんなの間違ってる。天使も悪魔もこんなに仲良くなることができるのに』とか言いながら抱き合ったりとか」

「え〜!!」

「おい、カズ……」

 アリスは顔を紅潮させ、チルドは恥ずかしそうに後頭部を掻いている。

「だいたい、アリス達もアリス達だ」

「え?」

「お互い好きなんだろ?だったら、もう少しそれを形で表したらいいんだよ。いつまで経ってもお友達みたいな間隔でいるから皆が心配するんだ。少しでも変わったところを見せてやったら、絶対誰も文句は言わないって。その変化がいずれ、二人を結婚に導くんだから」

「あ……」

「ぐむ……」

 俺の言ったことに、誰も反論はしなかった。

 部屋中に沈黙が訪れる。しかし、その沈黙は長くは続かなかった。


 「このぉ、言ってくれるじゃない!」

 いきなりナナルに首を羽交い絞めにされた。


 殺られる!?

 そう思った。しかし、ナナルはすぐに俺の首に巻きつけている腕を放して豪快に笑った。

「どんなくさい決め台詞を言ってくるかと思ったら真正直すぎだわねぇ。ま、子供のボーヤにしてはいいと思うわよ」

ナナルはそう言ってニヤリと笑った。

「君の言うとおりだよ。この子らが原因で戦争を起こしてしまったときにはこの子らの製造元であるあたしらが責任を取らないといけないんだ。そんでもって、その場で言わせるんだ。例の文句をさ」

 例の文句、とはおそらく俺がさっき勢い任せで言ったあれのことだろう。チルドとアリスの顔が一瞬で朱に染まる。

「まぁ、言わんとすることはわかったよ。レッド君、君はけっこう演説家に向いているかもしれないね」

 険しかったジャックリースの顔がふっと緩まる。

「わしらとしては早く結婚をしてもらいたいのだが、彼の話を聞いていると、どうやらわしらにも非があったみたいだな」

「そうですね。そんなに長くは待てないかもしれませんが、もう少しだけ今のままでも良いですね」

 ドライブもメル姉さんもやわらかい笑みを浮かべた。この様子だとどうやら、俺の一言で収集がついたみたいだ。ここまでかっこよく決めといて、反論されたらどうしようかと思ったぜ。



「カズ君、顔が青いけど大丈夫?」

 アリスが心配そうに俺の顔を覗き込む。

「え?俺、そんなにやばい顔してる?」

 顔を触りながら慌ててそう言うと、アリスだけでなくその場の全員が頷いた。

「そうか、お前これで決まらなかったら殺られるとか思ってたろ?」

 チルドが今にも噴出しそうになりながら言う。

「べ、別にそんなこと思ってなんか……」

「正直になれよ。あの台詞もなんだかいっぱいいっぱいみたいな感じだったのはそのせいか」

 チルドはついに笑い出した。

 皆、大声で笑い始めた。責められているのは俺なのになぜだろう。気がついたら俺も笑っていた。

「カズ君、今日はごめんね。なんだか、いづらい雰囲気の場所に無理矢理つき合わせてしまって」

 ひとしきり笑い終えた後、アリスがおどおどと俺に話しかけてくる。

「気にすんなって。結果的にはこうして生きているんだし。それに……」

 俺はこいつらに言おうか言うまいか悩んでいた言葉をグッと喉の近くまで持ってくる。

「お前らの正体を知ることができてよかったと思ってる。なんていうか、今日のことって、お前らが俺に悩みを話してくれたみたいなシチュエーションだろ?なんか嬉しくってさ。これは人間だけじゃないかもしれないけど、友達のことを知ることができたときって一番嬉しいんだ」

「カズ、ありがとよ…」

 チルドはそう言ってぶっきらぼうに右手を出した。

「あんまりこういうのはこっぱずかしくてできなかったけど、お前やアリスとならそれもできる気がするぜ。その……もう少しの間だけど、よろしくな」

「ああ」

 チルドの手の上に俺の手が乗り、その上にアリスの手が乗った。

 三人とも種族は違うのに、とてもとても暖かかった。


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