第26話〜やってきた理由〜
「お父様、ジャックリースおじ様、ナナルおば様、お久しぶりです」
「うっす、親父にお袋。それとドライブの爺さん」
「誰が爺さんだ。まだ老け込むのは早いわ」
……なんとも対照的な挨拶だ。アリスとチルドって元の姿と仮の姿で性格がまるで正反対だ。
「お父様、今日の御用件は?」
「ふむ、兼ねてから言っておることだがお前達の……」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ爺さん」
「爺さんではない!!」
ドライブは本気で目を吊り上げている。どうやら見た目が老けていることを本気で気にしているみたいだな。外見だけなら五十前後に見えなくもないよな。
「カズがいる前でいきなりその話かよ。てか、俺達についての話は?今日はそのためにカズも呼んだんだろ?」
「まぁまぁチルド。そう慌てない慌てない」
一応息子をたしなめているつもりなのだろうが、ナナルさんがやるとどうにも単に「めんどくさいから黙ってて」と言っているようにしか思えん。
「天使と悪魔のことについてはカズ君にちゃんとお話します。カズ君は偶然とはいえ、この子達の本来の姿を見てしまった。それに対する対処はしておかなければなりません」
対処。
メル姉さんの言ったこの二文字の言葉に俺は生唾を飲み込んだ。それを察したのかジャックリースが小さく微笑みながら俺に言った。
「もう聞いているかもしれないが、我々が人間を襲ったのは過去の話だ。今はそんなことは絶対にしないと約束する。君がチルド達の正体を見たから口封じをすることはない。気楽に聞いてくれてかまわないよ」
どこかやる気のない口調だったが、その中には優しさみたいなものも含まれていたと思う。どこかやるきのない言い方ながら妙に安心できたのもそのせいだ。
「それでは改めて議題に入ろう。前々から保留状態にあったお前達の結婚についてそろそろ考えようと思うのだが」
「け、結婚!?」
なんだかとてつもない議題なんですけど……って思っているのはどうやら俺だけらしく、チルドもアリスもまたかと言わんばかりにため息をついた。
「そのための人間界来界だということを忘れてはおらんよな?」
「「………」」
ドライブの厳しいまなざしに、アリスもチルドも黙ったままだった。
「なぁ、ほんっとにこの期間が終わったら即縁談を組まされるのか?」
乱暴そうなチルドの顔がこれでもかというくらい引きつっている。
「そうだ。お前達は魔族、天使族初の双間結婚ということになる。となれば、当然言い表せぬくらいの苦労が出てくる。年をとってからその苦労に対面してでは遅いのだ」
「お父様……」
アリスは不安そうな表情で父親の顔を見る。
「で、でもよ、天使界の奴らも魔族も俺達の結婚なんて簡単に認めてくれるって。そんなにせくことはねぇって」
「そーゆーわけにはいかないのよ」
ナナルが人差し指を降りながら「甘いわねぇ」とつぶやく。
「魔族の中にもいまだに天使族を嫌う者がいるように、天使族の中にもいまだに魔族を嫌う者がいるのよ。千年経って少しはマシになったかと思えばそうでもないみたいだし」
「それは仕方のないこと。天使族との間とも長い間我らと戦争が絶えなかったから」
「でも、戦争はいつも貴方達悪魔が仕掛けてきたじゃない!」
「わかっている。しかし、その血の気の多さを治そうとしている者もいる。だから、一概に責めないでやって欲しい、メル」
「……ごめんなさい」
メル姉さんはしゅんと頭を下げた。
「話がそれているぞ。それにあまり難しい話ばかりではこの子が退屈してしまう」
ドライブはそう言って半分寝かけている俺をちらりと見た。
「そうね。あんまり大人の話につき合わせては悪いし、ボーヤにわかるようにナナルお姉さんがサクっと説明してあげますか」
「ナナル、あまり関係ないことを話すなよ。お前の話はたまにものすごく話題が飛ぶ」
「あら、失礼ねぇジャック。あたしがそんなことをするはずないじゃな〜い。ねぇ、チルド?」
「いや、親父の言うとおりだと思うぜ。お袋の説教は説教くさくないから嫌いではないけどよ」
ていうかこの人が他の人間――おっと、悪魔だから魔族だったな――に説教なんかする筋合いがあるのか?
俺にはそっちのほうが気になる。
「あ〜ら、それはとんだ勘違いよボーヤ」
げっ!今の独り言聞かれていたのか。
「これは人間にも言えることだと思うけど、人って年を食えば食うだけそれに伴った経験や知識ってのが身につくものなの。本人が望む望まないに関係なくね。それは本や学校で教わる知識とはまた違うものなのよ」
「ふ〜ん、つまり人生経験の長さの違いってやつ?」
「ま、平たく言えばそういうものね。学校に行っているから誰かに説教していいなんて決まりはどこにもないわ。ねぇ、メルさん?」
「まぁ、そのとおりではありますね」
肯定はしているものの、やはりメル姉さんはこの人の意見に賛同したくはなかったように思える。
「ナナル、また話がそれている」
「わかってるわよ!」
ナナルは睨むようにジャックリースに顔を向けるものの、すぐに俺のほうに戻して話を続けた。




