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第24話〜魔界のマドンナ〜

 そんなことを思っていると、障子の向こうから廊下を踏みしめる音が聞こえた。しかも、メル姉さんのようにしとやかではなく一歩一歩わざと音を出しているようにも聞こえるような歩き方だ。

「やっほー、お久しぶりねぇ!」

 障子の開け方も乱暴だし無意味にハイテンションのこの美女は誰だー!

 思わずそう叫びたくなるほど、彼女の登場シーンは愉快なものだった。しかもそれだけではとどまらず、いきなり俺達三人を抱きしめ、キスまでし始めたではないか。

 ほんとになんなんだ、この人!?



「母さん……」



 だいぶきつく抱きしめられているはずなのに、チルドは平然とした顔のままその美人に向かって母さんとつぶやいた。

「勝ったんだね?」

 チルドの一言に美女は嬉しそうに大きく頷いた。

「そうなのよー、もう今のあたしったら超ついてるのよ。だからね、今日もいーっぱいお土産買ってきたのよ。ほら、チルドの好きな魔界いちご大福もばっちり買ってきたわよぉ」

「魔界いちご大福…」

 あの無表情がゆっくりと溶けていく。

 いや、とろけていくの間違いだな。それにしても母親がこの場に来ているのだったらチルドの父親もここに来ているはずだよな。しかし、チルドの親父の姿はどこにもなかった。

「ところでナナル」

 アリスの親父が咳払いをしながら美女の名前を呼んだ。

「あらドライブ。相変わらず渋い顔をしているわね」

「お前のその性格も相変わらずだな。ところで、ジャックリースはどうした?一緒に来たのではないのか?」

「知らなーい。今日ここに来ることはわかっていたみたいだけど、昨日はかなり仕事が忙しそうだったから、もしかしたらそれが延びているのかもねぇ」

「それでお前は相変わらず遊び歩いておるのか?」

 アリスの親父の目が光ったような気がした。

「まぁねぇ」

 ナナルは実にすました表情で言った。

 なんだか軽そうな人だなと思ったら遊び人だったのか。だから服はだらしないし、髪もぼさぼさだな。風呂毎日入っているのか、この人は。


「ナナルおばさんはこれでも魔界一の美女なんだよ」


 アリスが俺に耳打ちした。

 これで魔界一だって?

 どこをどう見たらこんな人が綺麗に見えるのだか……。

「そうよ、ボク。千年に一度の魔界美女コンクールで断トツトップの優勝を果たした乙女、それがあたしよ」

 ナナルはそう言って子供の俺に色っぽいポーズをとってみせながら「アリスちゃん、これでもは余計よ」と言って、笑いながら目だけアリスを睨みつけていた。

「貴方がチルドの言っていたボーヤね。ふ〜ん、なかなか可愛いじゃない。人間を手下にするならこういう子がいいなぁ」

 ええ!?この人、実はショ〇なのか?まぁ、そんな気がせんでもないが。

 俺は人間を手下にするという悪魔の言葉よりもそっちのほうにショックを受けた。

「ふざけるのもそのあたりにしておけよ、ナナル」

 アリスの親父が口をすっぱくして言う横で、ナナルは口を尖らせながら「わかってるわよぉ」とぼやいた。

「あら、やっぱりいらしていたのね」

「やっほぉ、メルさん。久しぶり」

「久しぶりすぎです」

 メル姉さんはため息混じりに言いながら、湯飲みをナナルの前に置いた。

「貴方がきているから、てっきりジャックリースさんもきていると思ったのだけど」

「それがそうじゃないのよぉ。あの人ったらあたしより仕事のほうが大事らしいのよねぇ。まぁ、そのほうがあたしはあたしの仕事ができていいけどね」

「……そっちのほうも相変わらずなのね」

 メル姉さんはさっきからため息をついてばかりだ。

 無理もないか。普通に考えたら一児をもつ母がこんなだらしのない遊び人じゃ、不安になる。というか、こんな母親がいるのによくチルドは非行に走らないものだ。そこはやはりチルドだからなのだろうな。

「メル、お前もそろそろ座りなさい。時間にルーズな奴だが、十分以上遅れたことはないからな」

「ほんとなら、十分でも遅刻は遅刻なんですけどね」

 メル姉さんの口からまたため息が漏れる。どうやらメル姉さんとチルドの両親とはあまり仲がよくないようだ。アリスの親父も、そんなにいい顔はしていないみたいだから、どちらかと言えば嫌いなのだろう。


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