第23話〜親娘〜
駄菓子屋の奥は今時ちょっとみかけない和風作りの家になっていた。
「俺、畳なんて初めて見た」
「そうなの?冬は少し寒いけれど夏は風が入ってとても気持ちいいわよ」
メル姉さんは嬉しそうに説明してくれた。
「カズ、畳って何?」
俺の後ろでチルドがつぶやいた。まぁ、あんなお城に畳なんてあるわけはないよな、と思いつつ俺は自分の知っている限りで畳の説明をした。
「今では、茶道でも使っているのを見たことないぜ」
「そうなんだ」
「チルドも、アリスの家に来るのは初めてなのか?」
俺の質問にチルドは小さく首を縦に振った。
「アリスのお城には何度も行った。けど、こっちの家は初めて」
またわけのわからないことを言い出したが、まぁいい。どうせこれも後で聞けばわかることだ。
「ここで待ってて。今、お菓子を持ってくるから」
「「はぁ〜い」」
アリスとチルドは素直に返事をすると、障子を開けた。
「おう、アリス帰ったか」
障子を開けた途端の大声&だみ声。そして、客間のど真ん中にでーんと座っている大男。
「何、この人?」
思わずつぶやいてしまった。しかし、それより先にアリスのほうが大男のほうに飛びついていた。
「お父さん、久しぶりだね。元気にしてた?」
「おう。アリスも元気そうで何よりだ」
「もう何年ぶりになるかなぁ」
「そうだな、ざっと二年半ぶりってところか?」
親子の再開をしている後ろで、俺はひそひそとチルドに耳打ちをした。すると、チルドはいつものようにやる気のない顔のまま「そっか。カズは知らなかったよね」と言って、この親子のことを話してくれた。
「アリスは二年半前にこっちの世界にやってきた。人間界を勉強するため。アリスのお父さん、天使界の中で最も偉い人。だから一緒にくることはできないって……」
なるほど、そういうことか。二年半前ってことはアリスは九歳か、十歳ってところか。やっぱりまだまだ両親が恋しい年頃だよなぁ。
……うん?ちょっとまてよ。こいつらのこの姿は仮の姿なんだろ。本来はものすごく大人で、それで親父が恋しいっていうのはちょっと想像つかない。
「そんなことない。僕も、父さんや母さんと離れ離れになるのは寂しい。いくつになってもそれはかわらない。アリスは女の子だからなおさらそう」
「………」
俺は黙って親子の再会を見ていた。確かに、いつも無意味に元気なアリスだが、その無邪気さも今日は嬉しさからなのかもしれない。
「おじさん、久しぶり」
チルドが礼儀正しく正座をしながら、アリスの親父に挨拶をする。
「お、おお。えらくおとなしく、しかも礼儀正しくなったもんだな……」
アリスの親父は戸惑った様子でチルドに挨拶を返す。
「びっくりでしょ、お父さん。あのチルド君がこんなにおとなしくなっちゃうなんて」
「ああ。本当にあの剣のように冷めた性格になっているな」
アリスの親父はどこか拍子抜けしたとでも言いたそうな顔をしている。
「お前だけだったんだがなぁ。わしの稽古の相手になる奴は。少しだけ戻ってくれんか?」
親父の言葉にチルドは静かに首を振った。
「今はカズがいる。カズ、あの姿になった僕をあまり好きじゃないから」
「そうか。そう言えばすっかり忘れていたが、君がカズ君か」
「あ、はい」
親父に目を向けられ、俺はいつになく緊張した。
「まぁ、そんなに堅くならんでもいい。こいつらを人間界に出した以上、人間に正体がばれるという危険性も考えなかったわけじゃない。君をとって食おうなんて考えてはおらんよ」
「そ、そうですか…」
安堵した。とりあえず、ここから生きて返してはもらえそうだな。
「ハハハ、ほっとしたか」
親父は家中に響き渡るような大声で笑った。
この人の前だと、なんだか俺の存在が小さく見えるな。
「わしは天使界の長。長が人間を襲って食ったりなんかしたら、下の者や次の世代の者に示しがつかんよ。それに、いつもアリス達が君の世話になっているから褒美をやりたいくらいだ」
一緒にいるだけで褒美をくれるとはお金持ち(?) は違うなぁ。
「お茶が入りましたよ」
滑らかに障子が開かれ、メル姉さんはてきぱきとした手つきで俺達にお茶の入った湯飲みを置いた。
「ごめんねカズ君、チルド君。うちの残ったお菓子ばかりで」
「全然へーき」
「そうだよ。メル姉さんとこのお菓子はしばらく食べてなかったから嬉しいよ」
「ふふ、ありがと」
メル姉さんはにっこりと微笑んだ。
「それにしても魔界のはどうした?」
親父が茶をすすりながら声を荒げて言った。
メル姉さんも困った顔をしながら「さっきから何度も連絡は入れているんですけど……」と困った表情でつぶやいた。
「そう言えば、チルドの両親ってどんなのなんだ?」
「もうすぐ来ると思う。その時にわかる」
チルドは相変わらずそっけない返事しか返さなかった。
あまり触れられたくない話題だったのだろうか。




