第1話〜奇特な二人〜
俺が子供の頃住んでいた町は――町というよりは村と言ったほうが近いな――それなりに気候も温暖で農業が盛んなところだった。
学校も普通に小・中・高とあって、町の中央公園は今でも小学生の集いの場となっている。 あいつらと出会ったのは小学校の最後の一年間のときだ。その時の自己紹介の様子は今でもはっきりと覚えている。
「はい、では最初はクラスの皆と仲良くなるために自己紹介をしましょうね」
担任の先生が笑顔で告げる。
クラスメートの中にはブーイングをとばす者、自己紹介で紹介する内容を一生懸命紙に書いている者、新しくできた友人とのおしゃべりに没頭していて気がついていない者、様々だった。
「名前の順で最初はアリスちゃんね」
先生は窓側の一番先頭に座っているツインテールの少女に壇上に上がるように手招きをした。少女は楽しそうに、そして嬉しそうに壇上に上がった。
「出席番号一番のアリスです。みんな元気〜!?」
クラスメートの半分は知らない人間だったろうに彼女の自己紹介の第一声はそれだ
った。クラスメートの中には声を返すものもいたが、半分以上は無反応だった。
「う〜ん、か〜なり元気がないぞぉ!ま、いいや」
おい、いいのかよ!
俺は思わず突っ込みを入れたくなったが、頭の中だけでそれをとどめた。
「わたしの元気でみんなをい〜っぱい幸せにするのが目標です。だから、みんな仲良く元気にいこうね!」
アリスは最後に「いえ〜い」と右手親指を立ててポーズをとった。面白かったのかみんな笑っていた。もちろん、俺もおかしくて笑っていた。なんだか理由はよくわからなかったけど憎めない奴である。そう思った。
自己紹介はどんどん続き、クラスメートが一人一人自分の個性をアピールしていく。そして、真ん中辺りでとうとう奴の出番が来た。
「はい、次は出席番号十九番のチルド君」
奴は名前を呼ばれたのにもかかわらず無反応だった。先生がもう一度名前を呼ぶが、やはり奴は無反応だった。どのクラスにもこういう奴がいるんだよなぁ、と俺は頭の中で思いつつチルドが動くのを待った。しかし、三分くらい経っても動く気配がないのでとうとう先生が奴の机の前まで歩み寄った。
「チルド君、君の自己紹介の番よ?」
先生が近くで言っても反応なし。
チルドの前に座っている席の奴がチルドの目の前で手をひらひらと振ってみる。
「先生、こいつ寝てるよ」
これには流石の先生も驚いたようだ。目を開けて寝るなんていう特技があることは知っていたが、まさかその年齢でそれをマスターしているとは。チルドは意外と芸人向きなのかなと当時の俺は思っていた。
結局チルドは先生に肩を揺さぶられることで眠りから覚醒した。
「チルド君、君の自己紹介の番なんだけど……」
先生が苦笑いをしながらつぶやく。
「……わかった」
チルドは小さく頷くと、てくてくと壇上に向かって歩き出した。さっき起きたばかりだというのに、その足取りはふらついてなく、目もぼんやりとはしていなかった。まさかこいつ寝ていたふりをしていたでは?これは俺のみならずクラスメート全員が思っていたらしい。そして、チルドの自己紹介が始まる。