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第18話〜“アリス”と“チルド”〜

「う、うわあああ!か、カズぅ〜!?」

 黒い羽に二本の角がある人間が突然取り乱したように叫びだす。

「ど、ど、ど、どぉ……!!」


 ど、ど、ど、ど?


「どどど、どうしようアリス!ば、ば、ば、ばばばれちまったぞ!」

 なんだか半分以上声になっていない。

「あら、カズ君。ずいぶん早く来たのね。よく一人でこのお城を攻略できたね」

 黒い羽に対して俺を助けてくれた白い羽の女性はとても落ち着いた雰囲気と優しい笑顔で俺を迎えてくれた。

「ば、馬鹿野郎!悠長なことを言っている場合かよ!俺達悪魔と天使は無闇に人間に正体を明かしちゃいけないって言われていただろ!」

「それはそうだけど、いいじゃない。私、カズ君なら信頼できるもの」

 白い天使は膨れっ面をしながら言った。

「それは何か。俺に対してあてつけか?」

 黒い羽がムスッとした顔で言った。

「だって、カズ君なら大人になっても絶対あんなもの読まないし、絶対に浮気なんてしないと思うもん」

 光の羽を持つ女性は頬を膨らませてそっぽを向いた。

「そのくらい別にいいじゃねぇかよ。浮気は男のロマンなんだぜ?なぁ、カズもそう思うよな」

「は、はぁ…」

 俺はこのなんとも言えない大人の会話についていけなかった。まだ十二歳の俺にはエロ本とか浮気とかは早すぎるよ。それにこの二人、名前こそ“アリス”と“チルド”だけど俺の知っている彼らとは似ても似つかなかった。

「んあ?どうしたカズ?」

 俺の考えなどまるで察していないのか“チルド”が怪訝そうに俺を見下ろした。

「チルド君、多分この姿じゃわからないわよ。いったん子供の姿に戻りましょう」

 “アリス”はそう言うと、太陽をモチーフにした首飾りの上に手を重ねた。刹那“アリス”の体はみるみる縮んでいき、俺の知っているアリスの姿になった。

「アリス…?」

「やっほー!」

 混乱している俺の前でアリスは元気よく右手をあげて見せた。

「ほらぁ、早くチルド君も戻りなさいよ」

「わぁーったから焦るなって」

 “チルド”は面倒くさそうに剣を構えて目をつぶった。すると、どうしたことだろう。俺よりはるかに背の高かった“チルド”は俺の知っているあのチルドの姿に戻っていった。

「……カズ、こんな時間に何か用?」

 元に戻ったチルドはあいかわらず、どこか抜けたような話し方だった。

「あ……」

 俺はあまりの出来事にすっかりここに来た目的を忘れていた。

 ハハハ、もう何度目だ、目的を忘れたのは。

 俺はかばんからクラスの寄せ書きと授業ノートを取り出すと、チルドに渡した。

「これ、今日の授業のノート。それからこれはクラスの皆からの寄せ書きだ」

 チルドはクラスの皆が書いた寄せ書きを手に取ると、じっくりとそれを読んでいた。

「嬉しい…」

 チルドは優しい笑顔でそうつぶやいた。

「カズ、アリスありがとう」

「うん!」

「ああ!」

 俺とアリスは嬉しそうに頷いた。

「明日、クラスの皆にも、お礼言う」

「明日ってお前、風邪はもう大丈夫なのか?」

「たぶん平気。アリスと遊んでいっぱい汗をかいたから」

 いや、普通あんなことしたらもっと体調悪くなるって。それよりも、さっきまでの戦いが遊んでいたというのはどう考えても抽象化しすぎな気がする。

「なぁ、お前らは一体……むぐ!?」

「ねぇねぇ、今日はもう遅いからチルド君ちにお泊りしようよ!」

 まるで何かから逃げるようにアリスは俺の口を塞ぎ、お泊り会を提案した。まぁ、もともと今日はあんな目に遭ったから今夜はこいつの家に泊まらせてもらおうと思っていたけど、何でアリスまで?

「何よぅ。あたしが一緒じゃ嫌なの?」

 アリスはぷぅっと頬を膨らませた。

「いや、そういう意味じゃなくて…」

 その先は恥ずかしくて言えなかったが、アリスにはわかったようで「ぜ〜んぜん心配ナッシングだよ」と言って右手親指をぐっと立てた。

 本当にわかっているのかなぁ。少し不安だった。


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