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第14話〜チルドと二人の召使い〜

 時は半日ほど遡る。

 朝起きるとどうにも体がだるかった。


「アンド!ロイド!」


 チルドはこの城を切り盛りしている二人の召使いを大声で呼んだ。

 十秒も立たないうちに部屋の扉がゆっくりと開き、外からインプが現れた。

「なんぞ御呼びでしょうか?」

「………」

 召使い二人の問いにチルドは答えなかった。

「「チルド様?」」

 二人の召使いは怪訝そうにベッドの上に座っているチルドを見上げる。しかし、チルドは依然無表情のままである。

「通学の用意ならできてまっせ?」

「朝食なら既に用意してまっせ?」

 二人の召使いがいろいろと質問してくるが、チルドは満足そうな顔をしなかった。

「……が…ない」

 チルドはかすれた声でようやくそう言ったが、召使い二人組にはまるで聞こえなかった。

「チルド様…?」

「今、何か仰いましたか?」

 二人の召使いは脳天気にそんなことを聞いてくる。


「だから……」


 チルドはわなわなと拳を振るわせながらつぶやいた。

「声が出ないと言ったんだよ、このすっとこどっこい!!」

 チルドはそう叫んでから勢いよく咳き込んだ。

 この部屋を破壊するかのような怒声に二人の召使いは「左様でございますか」と目を回しながら言った。

「昨日まではちゃんと声が出たのに、なぜ今日になって声がまったくでないのだ。それに、なんだか体もだりぃし、一体こりゃなんなんだぁ?もしかして天使の奴らの呪いにでもかかったか?」

 チルドはかすれた声で苦しそうにそう言うと、舌打ちをしてだるそうにベッドの上に寝転んだ。

「チルド様、その症状はおそらく天使の呪いなどではなく、風邪やと思います」

「カゼ?なんだそれは?室内に風なんか吹くわけねぇだろうが」

 体全体がだるいせいか、チルドの声はかなり苛立っている。

「ちゃいますよ、チルド様。風の邪と書いて風邪と読みますねん」

「つまり何か?俺は昨日のうちにその風邪とかいう邪悪に呪われたってわけかよ?」

 これまた脳天気に説明する召使い達を目ざとく思いながら、チルドは自分なりにまとめた簡単な結論を述べた。だいぶずれているような気はしたが、今のチルドに何を言っても無駄だとわかっていたので、召使いの二人は「左様でございます」と声を揃えて言った。

「安心してください。風邪はちゃんと安静にしとりましたら二、三日で治る小さな病です。その間はくれぐれもアリス様とご喧嘩なさらぬことですな」

「だ、誰があんな奴と喧嘩などするかよ。だいたい天使とは言え女相手に本気で喧嘩をするわけねぇだろ」

「チルド様、そない言うてますけど、この間の被害は覚えてらっしゃいますな?」

 アンドの指摘にチルドは言葉を詰まらせた。

「まぁそれはともかく」とロイドが話を戻す。

「今日はゆっくりとお休みください。アンドも言うてましたとおり、風邪いうんは安静にしとればしとるほど早う治ります。そやから今日はゆっくり寝て、ばっちり栄養を取ってください。わしらも全力でチルド様が回復するような美味しい食事を作りますさかい」

 チルドは不服そうに舌打ちをすると、何も言わずにベッドの上に寝転がった。

 その様子を不安そうに見守りながら二人の召使いは部屋を出た。



「しかし、なんや、チルド様がまさか風邪を引くとは思わんかったなぁ?」

 仕事場に戻る途中、ロイドはアンドにささやいた。アンドも「まったくや」と同意を示した。

「少し前から魔王様の意向で人間界にきて、チルド様の面倒を見とるけど、まさか人間のかかる病気にかかるとは夢にも思わなんだ」

「せやけど無理はないて。普段は人間達の目を欺くために奴らと同じ格好をしとるよってな」

「ふ〜む、そんなもんかのぉ」

「そんなもんやて。しかし、人間界の病も怖いのぉ。普段あんだけ暴力的でやかましいお人がぴたっと静かになるやなんて」

「こら、滅多なこと言うたらあかん。あん人に聞かれたらどないするんや」

「そやな。それにしても、あれでまだ軽いほうなんやろ。人間の病て」

「そうらしい。あれ以上に重い病気があるなんてわしは信じられへんわ」

 アンドとロイドはそんな話をしながらチルドのためにおかゆを作ることにした


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