第12話〜心優しき悪魔のしもべ〜
「なぁ、こいつもしかしてチルド様が言うとった…」
角人間の一人が確認するようにつぶやくと、もう一人も「ああ」と頷いた。
「お前、チルド様と同じクラスの者か?」
角人間の一人が聞いてきたが、俺の口からは嗚咽しか出てこなかった。角人間は俺の目線の先に気がついたのか、二人とも槍をしまいこんだ。
「これで少しはちゃんと喋れるやろ?」
「もう怖くないからおいちゃん達の質問に答えてくれんか?」
角人間達は優しく笑い――それでも俺からすればまだかなり怖いものがあるが――質問の答えを促した。
俺は口では答えず小さく頷いた。
「やっぱりそうか。実はな、わしらはチルド様の召使いをやっとる者やねん」
「チルド様から君のことはよう聞いとるで。『俺と友達になろうとした奇特な奴』や言うてな」
角人間達は愉快そうに笑った。
「本来魔界の者は人間を支配、奴隷化するんが普通なんやけど、君を見ていると友達言うんもまんざらでもなさそうな気がしてきた」
「そうやなぁ。もう、魔王や悪魔が世界を支配する時代やないんかもしれんな」
角人間達がしみじみと話している横で俺の腹が突然大きくなった。急に安心したのかおなかも再び元気を取り戻したようだ。
「ハッハッハ、元気のいい証拠やな」
「まったくや。坊主、腹減っとんのか?」
角人間の質問に俺は小さな声で「少し……」と答えた。
「ハッハッハ、何を言うてんねん。さっきの腹のなり具合はちょっとどころやなかったで」
「迷いの森を自力で抜けてくるくらいや。そりゃあさぞかし腹も減るはずや」
角人間達は優しく笑いながら「こっちにおいで」と言った。
案内された場所はこの城の台所のようなところ。意外にも悪魔達の台所は人間の暮らすものとさほど変わりがなかった。むしろ、人間の使っているものよりも良さそうな調理器具がいっぱい置いてあった。
角人間達はカートの中に入っていた料理をテーブルの上に置くと、俺に食べるように勧めた。
「………」
確かにいい匂いはするし、ここに並べられている料理も人間の食べるものとほぼ同じみたいだ。
しかし、しかしだ。こいつらは悪魔だ。いくらでも俺を騙すことはできるはず。そう思うと、いくらおなかが減っているとは食べるのに抵抗を覚えてしまう。それを察したのか、角人間達は少し怒ったような顔で言った。
「食べたくなかったら食べんでもええで」
「そやけど、これをそのまま捨てるんはもったいないなぁ。魔界の魔王様に食べ物を粗末にした罰で死刑にされたらどないしょう…」
「そ、そんな大袈裟な。食べ物くらいで死刑だなんて」
俺の言葉に、角人間達はものすごい形相で俺に詰め寄ってきた。
「ど阿呆!魔界の法律は人間の世界とちゃうねんで!」
「そうやそうや。人間の世界では許されることが魔界ではほとんどあかんねん。食べ物のこともそのいい例や」
角人間達は右往左往しながら揃って「魔王様に殺される〜」などと騒いでいる。
う〜ん、こいつら決して悪い奴らじゃないみたいだし、一応助けてくれたし…。
俺は角人間達の用意してくれたご馳走を凝視する。そして、一口だけ口に入れた。
「美味しい…」
俺が最初に食べたのはステーキだったが、肉の厚みも柔らかさも焼き加減も全てが揃って最高級の味だった。
「どや、美味いやろ?」
「うん!」
大きく頷くと、角人間達は嬉しそうに俺に次々と料理を勧めてくれた。しかし、半分くらいまで食べた時点でふと気がついた。
「これって本当は誰かが食べる予定のものじゃなかったの?」
だからああやってわざわざカートで運んだりしていたのだろう。
角人間達は気まずい表情になりながら「そうなんやけど…」とつぶやいた。あまり聞かなかったほうがいい話題だったな。
「ごめんなさい」
俺はすぐに謝った。角人間達はそんな俺の頭を軽く叩いた。
「坊主が謝るようなことは何もないて。そんなことを気にしながら飯を食うても消化が悪なるだけや。飯は楽しく食わんとな」
角人間達はそう言って、にかっと笑った。




