第9話〜光の羽〜
「はぁ、はぁ、はぁ……」
森に入ってからどのくらい時間が経過しただろうか。ずっと森の出口を目指しているはずなのに、森の出口はもとよりチルドの家らしきものも全く見えてこなかった。
俺は次第に怖くなった。頭の中で必死に落ち着けと叫ぶが、恐怖は冷めることはなく不安ばかりが厚い固まりとなって俺の頭に落ちてくる。
「あ……」
俺の目から一粒の涙が落ちた。
畜生、怖すぎて涙が出てきちまった。しかし、泣いていたって始まらない。俺は自分を落ち着かせながら、周囲に気を配りつつ森を歩いた。暗くてほとんど何も見えなかったが、これは逆にチャンスでもあった。もし、この先に家があるのならば電灯か何かが灯っているはずだ。つまり、明かりが見える方向目指して進めばそこがチルドの家だという計算になる。俺は光を探しながら森を歩いた。しかし、この時の俺は今自分がいる場所が迷いの森であることをすっかり忘れていた。
そう、この森は迷いの森。入った者を容赦なく迷わせる魔法の森だったんだ。
そんな中で家の電灯を探すのはなんと愚かなことだっただろう。
何時間歩いても電灯の光は見つからず、しまいに俺は体力尽きて木の幹に座り込んでしまった。
「俺、このまま死ぬのかなぁ……」
はるか真上に見える星空を見上げながら、俺はそんなことをつぶやいた。体力は尽き果てた。食料になるものは何もない。もう歩く力さえも出なかった。かばんの重さでさえおっくうなほどだった。
その時だった。生と死の狭間を彷徨う俺につぶやきかけるような小さな声が聞こえた。
「この森の出たいのなら私の光を追いなさい…」
「え?」
俺はかすんだ瞳で真上を見上げた。真上に見えたのは満天の星空ではなく――
「光る……羽?」
見えたのは白銀に光る二枚の羽だった。
「さぁ、ついていらっしゃい」
声は優しくそう言うと、森の先に向かって飛行を始めた。
「あ、待って……」
俺はぼろぼろの体を引きずりながらひたすら光る羽を追った。するとどうだろう、真っ直ぐにしか進んでいないはずなのに、俺はいつの間にか森を抜けていた。そして、目の前には小さな明かりが灯っている一軒の家。
「チルドの……家?」
俺は思わず地面にへなへなと座り込み、泣き崩れた。しかし、これから起きる出来事のほうがもっと凄まじく、泣くことも忘れるくらいだったことを、今の俺はまだ知る由もなかった。




