藤本翔平。その男についての自身による考察。
主人公の自己紹介回
昔は、ヒーローだった。
ガキん時はなんだってできる気がした。
小学校の頃は、みんながアニメの曲やら戦隊ヒーローの曲を歌っている中、オヤジのCDラックから隠れて抜き取ったハードコアを耳をぶち破るように聞いて、一人、外のヤツラとは違う世界で生きているんだと妄想してた。
中学んなって、親を頼み倒して初心者用のヒッでぇストラトキャスターを買った。放課後、ダレもいなくなった教室でソイツをギャガギャガ弾いているだけで、気分はスーパースター。
音が悪いだとか、弦が錆びてるとか、そんなことは気にならなかった。
高校になって、バイト漬けの生活の末、ようやく買った17万のレスポールで、憧れのバンドを弾いた瞬間、無敵のスクールバンドが完成した。
仲間を集めて、ヘタな耳コピで学園祭にバンド出場した時、俺はこのままステージの上で死に絶えるんだと思った。もう、超人気バンドのメインボーカルに、なってるつもりだった。
だけど、大学に入って、状況は一変した。
当然、こんなクソみたいな経歴で、まともな勉強をしているわけでもなくFラン一歩手前の底辺大学に入学。
自分は大学なんて行く気はなかったが、親が学費を出してやるから、行っておけとひたすらに言ってきたのだ。
高卒では、この世の中生きていけない。と。
……結果、遊びに遊んで、単位を落としまくって、2回ダブった。後に、もう一度ダブるか、ダブらないかのギリギリで大学を卒業。
就職のことなんて考えちゃいなかった。
なんせ、自分は超人気バンドのメインボーカルに成るからだ。
成るつもりだったからだ。成ってる筈だったからだ。
……だけど現実はそう、甘くなかった。
大学で結成したバンドメンバーは、自分を残して次々と音楽活動を卒業。
プロに成る気は無いと言って、2年早く俺より大学を卒業し、大手商社に入ったベーシストの隼川修は、今じゃもう妻帯者。来春に第一子の出産予定だそうだ。
同じくプロに成る気は無いと言って、家業である豆腐屋を継いだ、二歳年下のドラマーの舩島俊哉は、去年の末にバイク事故で死亡。23歳という若さでその人生に幕を降ろした。
そして、俺と同じく2回留年し、未だ俺のクソみたいで生気のない音楽活動に熱心に協力してくれているギタリストの龍驤凛子は、未だにFのコードを抑えられず、もはや俺に協力してくれているのか、邪魔しているのか訳が解らないような状態だった。
……本人曰く、CとGが抑えられれば世界を変えられると云っているが、それは特別異端な状況であって、自分たちの音楽活動には一切関係がないということを激しく叫んでいるが、それはもはや無意味といったものであろう。
そんな状態で、今、自分はナニをしているか。
その答えは、酷く理想からは離れていて、旧友に会うたびに見えを張って嘘を言ってしまうような酷いものだった。
自分は今、ブラック企業のサラリーマンをしている。
将来ココに骨を埋める気はないが、その前に心的疲労、肉体的疲労で墓場に骨が埋まりそうだった。
【ファッキン・ホース・サラリーマン】
コレは、そんなクソみたいな男、藤本翔平の、
数奇で、奇妙な、夢物語である。
次回から、物語は点々と始まって行きます。