好きな人は私をもう必要としてないのかしら
もうすぐ期末テスト。今まではこの時期、私正留水面は幼馴染で片想い中の葵愛生の家庭教師をしていた。好きな人に頼られるというのはやはり嬉しい。だからテストの時期が待ち遠しかった。
けれどもうそんな関係も変わっていくのかもしれない。
「奏さんと一緒にテスト勉強しようと思うんだよね。彼女もあまり勉強得意じゃないらしいし。そんなわけで水面、もう俺の勉強手伝わなくてもいいよ」
学校へ行く途中、愛生は私にそう告げる。
今までと違って、もう愛生には好きな人がいる。
だから私がいると邪魔なのだ。愛生の心中は理解できる。
それでも、それでも私は納得がいかない。理不尽な展開を呪う。
「そう」
それしか言えなかった。私の顔は多分くしゃくしゃで、山猫軒に行った後のようだろう。
愛生にこの顔は見せられない。早歩きでずんずんと学校へ。
学校へついてもまだ私の気持ちは落ち着かない。女子トイレの個室ですすり泣く。
ああ吐きそうだ。叶わぬ恋と知りながらも戦う乙女に私はなれない。
気分をなんとか落ち着けて、教室の自分の席へ。しばらくすると愛生が入ってくる。
随分と怪我をしている。一体なにがあったのだろう、心配だ。
突き放されても一途に彼を心配する自分に嫌気もさしてきた。
「水面、俺が何かしたか」
「別に」
愛生にそう言われても、別に、としか言う事が出来ない。
私は彼に自分の意中を伝えられない。叶わぬ恋と知っているから。
このままの関係で何とか満足したいのだ。
もうこのままの関係もできなくなっていくのだろうけど。
私に見切りをつけたのか、愛生は奏さんの席へ。
無事に放課後、テスト勉強をする約束を取り付けたようだ。おめでとう。
そして彼は再び私の元へ。
「水面、俺が悪かった」
「……」
理由もわからないのに謝らないで。
「みなもん、ごめんなさいなの」
「……」
ちょっと噴きだしかけた。
「おいマサル」
「…っ!」
名前の話はいくら愛生だろうとタブーだ。私は読んでいた本を愛生に投げつけ、教室を出て行く。
もう嫌だ、保健室で寝よう。
自分は真面目な人間だと思っていたけど自分の恋愛がうまくいかないくらいでこうして保健室でサボるのだからそうでもなかったようだ。
保健室には私以外誰もいない。いい機会だから自分を見つめなおそう。
高校に入ってきてから、愛生は随分と積極的になった。恋の力で。
私は愛生が好きなのだ、愛生を見習うべきなのだろう。
放課後、私は勇気を出して図書室へ。
今は愛生と奏さんが仲良くテスト勉強をしている頃だろう。
私はそれに無理矢理入るつもりでいた。
愛生が邪魔されたと気分を害しようが構うものか。私は愛生と一緒にいたいのだ。
図書室のテーブルの一角、愛生と奏さんが頭を抱えている。
どうやらテスト勉強は全然捗っていないようだ。
「…はぁ、どこがわからないの」
突然の乱入者に驚く二人。しかし二人は嬉しそうだ。
「水面様…」
「様づけしないで頂戴。わかる範囲なら教えてあげるから」
「ま、正留さん、ありがとうございます」
自分に正直になった結果、私は奏さんが嫌いだとようやく気付く。
ただの醜い嫉妬。奏さんは何も悪くない。わかってる、そんなこと。
それでも、それでも私は奏さんが嫌いなのだ、恋敵なのだ。
それでも愛生には幸せになって欲しい、奏さんとの仲を応援するべきなのか、邪魔するべきなのか。
まだ自分の気持ちに整理はつかないけれど、とりあえずは二人に勉強を教えよう。