好きな人に看病されちゃった
「はぁ…はぁ…」
正留水面です。インフルエンザになりました。
丁度入れ替わりに隣の家に住む幼馴染の葵愛生は完治して学校へ行ったようです。
昨日学校に行ったとき、愛生の好きな奏さんは既に死にそうな感じだったので、
多分今日は学校を休むのでしょうね。
よかったじゃない、これで奏さんのお見舞いができるわ。
弱っている所を優しくされたら、結構女って落ちるものなのよ。
だから愛生も頑張りなさい。
ああ、そういえば愛生は奏さんの住所を知っていたかしら?
メールで送っておかなくちゃ。
両親も仕事だし、弟は学校だし、家に一人。
寂しいなんて感情が出てくるなんて、私もまだまだ弱い女よね。
本当は、少し期待しているの。愛生が奏さんじゃなくて私を選ぶ、そんな事を。
ほら、私の部屋のドアが開いて、ってえ?もしかして。
「うっす姉貴大丈夫か?」
「……」
「そんなに露骨にがっかりしないでくれよ、葵兄ちゃんじゃなくて悪かったな」
入ってきたのは弟である正留水瀬。時計を見ると昼の12時だった。
「学校行ったんだけど学級閉鎖になっちゃってさ、つうわけで昼飯買ってきたから」
「…ありがと」
「悪いけど俺もすぐにバイトに行かないといけないから。まあ4時くらいになったら葵兄ちゃんが看病しに来るだろうしな、それまでこれ食べて寝てなよ」
「愛生は来ないわよ、自分の好きな女の子の看病をしにいくの」
「何言ってんだよ姉貴。葵兄ちゃんは絶対に来るから」
その後氷嚢を取り換えたりと最低限の看病をして水瀬は家を出て行った。
お昼を食べたら眠たくなってきた。おやすみなさい。
夢の中でも私は一人ぼっち。
姿は見えないけれど楽しそうな声が聞こえる。
愛生と奏さんが楽しそうにお喋りする声。水瀬と彼女さんが楽しそうにお喋りする声。
さなぎさんと桃子さんが楽しそうにお喋りする声。私はそれを聞くことしかできない。
気が付いたら私の前には愛生がいた。
「水面、やっぱりお前が好きなんだよ」
わかっている、これは私の妄想。願望。こんなセリフを言うはずはない。
私の妄想の愛生は次々に私の望んだ言葉を紡ぎだす。
…夢の世界だし、いいわよね。
私は自分の夢だと言うのに辺りを確認して誰もいないとわかると、愛生に抱きついた。
「…よう、大丈夫か」
そしてここは現実。どうやら私は寝ぼけてベッドの側にきた愛生に抱きついているようだ。
顔が真っ赤になっていく。瞬間湯沸かし。
「な、ななななななんであんたが、奏さんのとこにいったんじゃ」
「いやさあ、奏さんのお見舞いしたいとは俺も思ったけどさ」
「俺はチキンなんだよ」
「…本当に馬鹿ね、あんた」
お見舞いに行く勇気がない、そんなことで諦めてどうするの。
挙句の果てに私のところに来て、私を期待させておいて。
どうせ最終的には奏さんを選ぶのに、生殺しだ。
「まあ、奏さんにはメールしておいたしさ、早く元気になってねって」
「だからって…折角のチャンスなのにもったいないわね」
「近い将来お見舞いできる時が来るかもしれないし、とりあえず今日は水面で練習ってことで、はいりんご」
そう、私は踏み台ってわけ。まあそれでもすごく嬉しいけど…って、
「…これトマトじゃないの」
「トマト好きだろ?小学校の頃勝手によその畑のトマト盗んでまるかじりしてたじゃん」
活発だった頃の自分を思い出すとすごく恥ずかしい。黒歴史というやつだ。
「思い出さないでそんなこと。…ありがと」
でも愛生がそんなエピソードを覚えてくれていたことが凄く嬉しかった。