好きな人を守りたい?守られたい?
今日も私、正留水面は幼馴染の葵愛生と一緒に登校。
けれど愛生は何も喋ってはくれないし、私も口下手な方だから会話がはずまない。
仕方がないので近くの女子高生の話でも聞くことにする。
「そういやお兄ちゃんが言ってたけど、向こうにある高校に不良屋ってのがあるらしいぜ」
「ふりょうや?」
「おう、演劇部の人間が、元ヤンの経験を活かしてターゲットに絡むチンピラとなるわけだ。よく考えつくよな、その商売」
「なるほど!依頼者は女の子にその人達を絡ませて、かっこよく登場して女の子を助けるんですね!…最低ですね、そんな事までして女の子の気を引きたいんですか?…でも演技でもそういうのは憧れますね、助けにきたのがなぎさちゃんみたいなチビだったら嫌ですけど」
そんな会話をしながら女子高生は彼女たちの高校へ消えていった。
「なぎさちゃんってどんな子なんだろうな」
愛生がそんな事を呟いた。どうやらまだ見ぬなぎさちゃんに期待を寄せているようだ。しかし、
「話を理解してないの?あの金髪が言ってるお兄ちゃんがそれよ?」
「…へ?」
2人の会話を聞いていればそんな事はわかるはずなのに、こいつはなぎさちゃんというフレーズしか耳に入っていないのだろうか?
「というより、多分一緒の中学にいた十里なぎさの事じゃないかしら?」
「え、一緒の中学にいたのか。多分俺は一度も同じクラスになったことがないんだろうな、全く記憶にない」
確か背の低い男だった気がする。それよりも妹…さなぎの方も私は面識があったはずなのだけどどうも思い出せない。
「水面、金貸してくれ」
唐突にお金を貸せと言われた。まあこいつの考えていることはわかる。大方先程話題に出てきた不良屋を利用しようという魂胆なのだろう。
「…はぁ」
無言で私は財布から五千円を取り出して手渡す。駄目男に貢ぐ女の姿は傍から見れば滑稽だろう。
その日の放課後、自分の作戦の成功を見届けて欲しいと愛生に頼まれ三文芝居を見る羽目に。
途中で目的が入れ替わってしまったのか、愛生は変身ヒーローのコスプレをして不良役に襲われた奏さんを助け、結局自分が助けたのだと気づいてもらえなかったようだ。
やはり女の子としては、好きな人に守って欲しいという思いはあるが、好きな人を守りたいという欲求もある。
というよりも私は守ってもらう程弱くはない。先日も愛生を撃退してしまった。
信じてもらえないかもしれないが、小学校の頃の私は活発でいつも愛生をいじめていた。
そう、無意識に好きな人にいじわるをしていたというわけだ。
自分が愛生の事を好きだという気持ちに気づいてからはだんだんしおらしくなっていったけれど。
ああ、思い出した。その前だ。私は愛生に守られたことがある。
あれは幼稚園の頃だ。
「女なのにマサルだってよ、やーいやーい」
「うぅ…」
名字が災いして男子にからかわれていたのよね、あの頃。
その頃はまだ私もか弱い女の子だったわ。
「さなぎってイモムシからなるんだぜ、やーいイモムシ女」
「違うもん!さなぎはちょうちょになるんだもん!」
思い出した。名前が原因で男子にいつもからかわれていたもう1人の女の子、それがあの金髪の少女、さなぎだ。
「みなもをいじめるな!」
「貴様ら俺の可愛い妹をいじめやがって覚悟はできてんだろうな?」
そんな時に私をいつもかばってくれたのが愛生だった。
さなぎの方も兄に守ってもらっていたようね。
「あおいあおいだってよ、お前の方がよっぽど変な名前だぜ」
「な、なんだと!だぶるぶるーだぞ、かっこいいんだぞ!やっつけてやる!」
「男なのになぎさだってよ、やーいやーい」
「俺の妹はどうでもいいが俺までからかうとは許さぬ!」
「お、お兄ちゃん私はどうでもいいの!?」
まあ、一緒にからかわれて喧嘩になっていたのだけど。
それでも私は嬉しかったわ、多分あの頃から愛生に対する気持ちは芽生えていたのでしょうね。
そして私も愛生を守るんだと武道を習って今の私になったというわけ。
…何故か活発な少女として愛生にいじわるしていた時期が長かったけれど。
屑でも変態でも、確かに愛生は私のヒーローなのよね。