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好きな人だからって縦笛舐めさせるなんてね・・・

 私、正留水面が学校へ行くためにドアを開けると同時刻に隣の家のドアが開き、片想いの相手である葵愛生が出てくる。


「おはよう。ものすごい偶然だね」

「そうね」

 本当に偶然である。別に私はストーカーでも何でもない。

 そのまま二人で学校まで歩く。


「そういや男子って好きな子の縦笛舐めるらしいな。桃子もきっと何百人の男に舐められたんだろうな」

「気持ち悪い事言わないでよさなぎちゃん…ああ、でもなぎさちゃんとか今でも小学校に忍び込んで縦笛舐めてそうですよね」

 あれは確か私立焔崎高校の生徒かしら。あそこの高校も家から近いし候補にはあったのだけどね。

 ・・・ええ、察しの通り愛生がここの高校に行くというから私もここを受けた。馬鹿でしょう?

 さっき私はストーカーでも何でもないって言ってたけどストーカーかもしれないわね?



「そういえば今日は音楽の授業だったな」

「私は美術だけどね」

 この時既に私にはこいつの考えている事が予想できていた、幼馴染とはそういうものよ。




 放課後、案の定奏さんのロッカーを漁っていた愛生に声をかける。

 こいつは今日の朝の二人の会話を聞いて、奏さんの縦笛を舐めようとしたのだ。

 小学生か、こいつは。何で私はこんなのが好きなんだ。

 恋は盲目なんだと言うこいつに本心から気持ち悪いと言ってやる。

 恋は盲目なのは私の方だというのに。



「水面。頼みがある」

「何よ」

 突然愛生に真剣な目で見られて思わず目をそらす。元々人見知りな方というのもあるけど、やはり好きな人に直視されると恥ずかしいのだ。


「お前の縦笛を舐めさせてくれ」

 考えるより早く手がビンタをしていた。


「痛いな、何するんだよ」

「突然そんな事を言われてビンタしない女の子がいると思ってるの」

「だよねぇ」

 ただこいつも私が幼馴染だから多少のわがままは聞いてくれると思っての頼みだろう。

 ついでに恋されている事は気づいていないのだけれど。


「水面、女の子にはわからないかもしれないが縦笛を舐める事は男のロマンなんだ。そりゃあ舐めれるなら奏さんの縦笛舐めたいよ。だがこればかりは無理だ、俺も叶えられない夢を追い求める程馬鹿じゃない。だから俺は縦笛を舐める、という行為そのものに執着することにする。だからお前の縦笛を舐めさせてくれ」

 だがそれとこれとは話が別だ。そんな気持ち悪い事を長々と述べられたら思い切りビンタをしてしまうに決まってるじゃないの。


 でもやっぱり私は馬鹿なのでしょうね。

「・・・わかったわ」

 こんな事言っちゃうんですもの?



「最後に水面の家に遊びにきたのいつだったかな」

「さあね」

 二人で帰り、自分の家に愛生をあげる。両親は仕事でいない。

 男に縦笛を舐めさせるために家に招待するだなんて、親が聞いたら涙を流すでしょうね?



「お、姉貴おかえり!おいおい男連れか?姉貴は彼氏とか作れないだろうなーと思ってたけどそんな事はなかったんだな感動したぜ…って葵兄ちゃんじゃん」

「おう水瀬。久々だな」

 家には既に弟の水瀬が帰っていたようで、余計な事をぺらぺらと口走る。



「ところで水瀬、お前好きな子の縦笛舐めたことあるか?」

「勿論だぜ葵兄ちゃん!それどころか体操服や靴も嗅ぎまくったぜ!バレて嫌われたけどな!」

「…そんな話、聞きたくなかったわ」

 身内がまさかド変態だったなんて。まあ私も男に縦笛舐めさせようとしているのだから同じ穴の狢か。


「へえ、意外と女の子らしい部屋なんだな」

 失礼ね、これでも恋する乙女よ。

「はいこれ。舐めたらさっさと帰って」

 押入れから縦笛を取り出して愛生に渡す。



「ところで、これを最後に使ったのいつ?」

「小学6年生じゃないかしら」

「3年も経ったらもう何もかも消え去ってるじゃないか。いっぺん自分で吹いてよ」

 直後に正拳突きが炸裂。哀れにも顔面に私のパンチを食らった愛生は私のベッドに吹っ飛ぶ。



「ねえ、幼馴染だからって何でもわがまま聞いてくれると思ったら大間違いよ」

「頼むよ、こんなんじゃそこらへんで買った縦笛を舐めるのと一緒じゃないか。布団の匂いかぎまくってやる」

「お願いしてるの?脅迫してるの?」

 まあ、そこは幼馴染でおまけに惚れた相手。結局言われるがままに吹いてしまうのが馬鹿な所。

 とはいえ元々笛は得意ではない、まともに演奏できるのは・・・ドレミの歌にしよう。

 ところどころ明らかにおかしな高音が出ていたり、息継ぎができていなかったりしたが、まあ私としては良くやった方じゃないかしら?


「下手くそだね」

 縦笛を全力で愛生の顔にぶちあてる。愛生は痛みでプルプル震えているが、私も震えている。

 縦笛を舐めさせろと言われ、気持ち悪い持論を聞かされ、目の前で吹けと言われ、苦手ながらも吹いたというのに、何なのだこの仕打ちは。恋とはここまで辛いのか。

「ねえ、これでも私は優しい方だと思わない?」

「うん。流石に調子に乗っていたと思うよ。ごめんごめん」

 私で遊ぶのも飽きたのか、愛生は笛に口をつけ、そして


「この曲…」

 子供の頃にお風呂で声が反響するのが楽しくてついつい歌を作ってしまい、それが気に入ったのか

 よく歌っていたそれを、完全に再現した。私ですら忘れかけていたのに、何でこいつはこんなものを覚えているんだろうか。

 ああ、私が好きなのはこいつのこういうところなのかもね?


「うん、やっぱり水面とはいえど女の子の唾液の残ったものを口にするのは興奮するね。ジュースとかの関節キスって液体で唾液とかが流れるけど縦笛なら流れないじゃないか。だからこそ世の男は縦笛を舐めたがるんだと思うよ」

 その後はこいつの縦笛に対する考察を聞く羽目になり、


「いやあ本当に迷惑をかけるね、持つべきものは幼馴染だよ。何か埋め合わせしないとね、何か俺に頼むこと考えておいてくれよ」

 そういって愛生は私の部屋を去っていった。何だか今日は本当に疲れたわ・・・



 ふと、返ってきた縦笛を見つめる。

 これには今愛生の唾液が付着しているわけで。

「・・・・・・」


 え、その縦笛をどうしたかって?秘密よ、秘密。

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