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好きな人のためなら罪を全て背負うわ

「全部私に任せなさい」

 私は愛生にそう告げる。自らが引き起こした奏さんへのいじめを止めさせたいから力を貸してくれ、と頼んできた愛生に。



 愛生は何もしなくていい、愛生は奏さんと幸せになってくれればいい。

 私はまず、奏さんへの苛めを止めさせるために、主犯格である二人をどうにかすることに。



 丁度教育関係の重鎮がこの日ウチの高校に視察しに来たそうだ。

 注目の集まる今日がチャンスだろう。私は昼休憩に放送室へ忍び込み、


『あ、そうだ。どうせならこの奏さんの制服も、やっちゃおうよ』

『それいいね、ジョキジョキジョキーっと』

 先日録音したそれを流した。教師が放送室に駆けつけてくる前に脱出して、教室へ戻る。

 教室の空気はがらりと変わっていた。奏さんを非難する空気が、女子2名を非難する空気に。

 あっけないものだ。



 あっさりと奏さんへの苛めは止まった。ばっちりと苛めの証拠があがり、トカゲのしっぽ切りのように奏さんの敵だった皆が今度は彼女達の敵となる。人間って怖いわね。

 二人は気づけば、余所の学校へと転校して行った。

 彼女達はある意味私と愛生の被害者なのかもしれないが、同情する気は全くない。



「水面、これで良かったのかな」

 二人の転校の知らせを聞いたその日、奏さんとT字路まで一緒に下校してそこで別れた愛生と合流する。

 愛生は何だか納得がいかないようだ。私のやった苛めの解決方法に。

「おとぎ話じゃあるまいし、皆で仲良くなってハッピーエンドなんて無理な話よ。加害者に優しいって事はね、被害者に冷たいってこと。遅かれ早かれ、彼女達はどこかで自爆して制裁を受けたわ。だったら早い方がマシでしょ?そして私達…いえ、私も制裁を受けないといけない」



「私が校舎を荒らしました」

 次の日の翌日に、私は朝礼が終わった後教壇にたってそう告白する。

 ざわめく教室。まさか私がそんな事をするはずがないと思っていた教師の驚く顔。

 私は愛生に目で黙ってて、と伝えて、罪を打ち明ける。

「優等生でいる事に疲れて、つい文化祭のセットを壊しちゃって、気付いたら奏さんがやったことになって。すぐに自分がやったって言いだそうと思ったのに、奏さんが嫌がらせ受けているのを見て、言いだせなくなって…本当にごめんなさい!」

 私は自首をすることにした。愛生を焚き付けて奏さんに被害を与えた責任は、私一人で取るつもりだった。ただ、愛生だけは幸せでいて欲しかった。私の気持ちを汲み取ったのか、愛生は私から目を逸らし、何も言わなかった。



「許すか許さないかはよー、奏さんが決めるべきじゃね?」

 クラスの男子がそう言いだす。奏さんはきっと私を許さないだろう。でもそれでいいのだ、愛生が奏さんと幸せになってくれるなら、私は奏さんのように苛めを受けたって文句は言わない。顔も見たくありませんと言われるのなら、私も別の学校に行ったっていい。

 話を振られた奏さんは席から立ち上がって、深呼吸をした後に、

「正留さん…許すも何も、私は別に怒ってませんよ。私だって、たまにむしゃくしゃして何か壊したいなって思うことはありますし。それに私も悪かったんです、いつもうじうじして、そんなんだから周りに誤解されて、当たり前ですよね。だからその、正留さん、良かったら前みたいに、仲良くしてください」

 そう言ってペコリと頭を下げる。ああ、完敗だわ、奏さん。愛生が好きになるのも当然よね。



 こうして、奏さんへの苛めの件は収束した。

 終わってみれば、調子に乗った二人が痛い目を見て、私は許されて、愛生は奏さんを最後まで守り続けたヒーローとして信頼を得て。

 奏さんは私達大人しい女子グループに混ざるようになった。昼食も一緒に食べるようになり、奏さんはクラスに溶け込んだ。

 クラスメイトとして、友人として付き合ってみると、奏さんは良い子だった。



 愛生は終業式の日に奏さんに告白するつもりらしい。まず成功するだろう。

 そして高校2年生から新しいクラスで新しい関係が始まるのだ。

 私は二人が付き合うことになったら、それを素直に祝福しようと思っていた。

 勿論、実際に二人が付き合っているところを見れば、素直に祝福できないかもしれない。

 封じ込めていた嫉妬の心が蘇るかもしれない。けれども、頑張って封じ込めるつもりだ。

 醜い女の嫉妬が今回の事件を引き起こしたのだから。



 終業式の2日前、私は奏さんに呼び出された。

「どうしたの、奏さん」

 奏さんは少しもじもじしながら、照れながら、

「私、明日、告白しようと思うんです」

 そう告げる。そうか、愛生は終業式の日に告白するつもりだったが、奏さんが先手を打って告白するというわけね。

「そう。絶対に愛生はOKしてくれるわよ」

 目から涙が流れてきたがそれを必死にぬぐい、明日には付き合うであろう二人を祝福する。

 しかし奏さんはきょとんとするのだ。



「?葵さんじゃありませんよ?久我君に、告白しようと思うんです」

 …え?

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