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好きな人を焚き付けた私が悪いのよ

 冬休みが終わり、また私達の学生生活が始まった。

 相変わらず奏さんは嫌がらせを受けており、愛生がそれを守る。

 私はそんな愛生を守る。どうやら久我君も、影ながら奏さんを守っているらしい。



 ある日インターネットをしていた私は、いじめに関するエピソードを見つけた。

 濡れ衣を着せられていじめを受けた少年が、ボイスレコーダーを使って真犯人が笑いながら俺がやったと喋っているのを録音し、それを証拠に真犯人を退学させる、そんな話。

 何となく私は、ボイスレコーダーをポケットに忍び込ませていた。

 いつかこれが必要になる時が来るんじゃないかと思って。



 別のある日、4時間目の体育で男子が外でマラソン、女子が体育館でバレーと愛生が奏さんを守れない状況になった。その際愛生が私に、奏さんを守ってくれとお願いしてきた。

 単純に愛生に頼りにされるのが嬉しかった私は、体育の授業中奏さんに向かって悪意を込めて飛んでくるボールをブロックし続けた。

 だが、体育の授業だけで満足していた私が馬鹿だったのだろう。授業を終えて真っ先に更衣室に行って着替えるが、一向に奏さんは更衣室にやってこない。奏さんだけではない、奏さんにいつも嫌がらせをしているあの女子2名もだ。

 しまった、少し目を離した隙に。愛生に頼まれたのに、これで奏さんが被害にあったら、愛生が悲しむ。愛生が私にがっかりしてしまう。嫌だ、そんなの嫌だ。

 私は教室の前で待ち、

「授業中は一応ボールから守ったけど…授業が終わった後、奏さんを見失ったわ。とりあえず、私は校内を探してみる、何かあったら携帯に連絡するわ」

 着替えるために戻ってきた愛生に事情を説明すると、学校の中を駆け回る。



 空き教室、トイレの中、色んな所を探したけれど見つからない。

 携帯電話から愛生の連絡もない。愛生もまだ探しているのだろう。

 学校中を探し回り、更衣室の前まで戻ってきた際、中から声が聞こえた。



「今頃奏さんどうしてるかな、まだ倉庫の中で泣いてるのかな」

「ジャージぼろぼろでほとんど下着姿だし、助けに来た葵君とエッチなことしてるかもね」

「やだー、私達恋のキューピッドじゃん」

 あの女子2名の声だ。私は気づけばボイスレコーダーを起動させていた。

「あ、そうだ。どうせならこの奏さんの制服も、やっちゃおうよ」

「それいいね、ジョキジョキジョキーっと」

 制服の切れる音がする。恐らく、ハサミか何かで奏さんの制服をボロボロにしているのだろう。

「それにしてもあの時の奏さんの表情、最高だったねー。やめてください、やめてくださいをずっと連呼しててさ、途中から何も言わなくなって人形みたいになってさ。レイプってあんな感じなのかな」 

「やだー下品。そうそう、中学の時に苛めてた工藤さん覚えてる?」

「覚えてる覚えてる、あいつも少し可愛いからって調子乗ってたけど、中学卒業する頃は常に笑えない、ブサイクな顔になっててウケたわー」

 彼女達は奏さんの制服を切りながら、奏さんへやった嫌がらせの内容や、中学時代にもやっていたであろう苛めの内容などを笑いながら語りはじめる。前科持ちだったというわけか。

 ばっちりとその会話を録音した私は、その場を去る。



 彼女達の話なら奏さんは体育倉庫に閉じ込められているようだ、愛生に知らせなければ…と携帯電話を開きながら教室に向かっていたが、そこでジャージ姿の、可愛い髪型だったのが悲惨な事になっている奏さんと遭遇。

 奏さんは教室に入るなり、ジャージのまま探しに行ったのかまだ机の上に置かれている愛生の制服を持って再び教室を出て行った。チラっと見えた奏さんのブカブカなジャージには「AOI」と書かれていた。

 推測するに、愛生は奏さんを体育倉庫で見つけたが奏さんのジャージがビリビリにされていたので愛生が自分のジャージを着せて、制服を持ってこさせたのだろう。

 愛生に連絡する必要はないわね、と携帯電話を閉じて教室で二人の帰りを待つ。

 さっきの女子2名が教室に戻ってきた。私に盗聴されたとも知らずにニヤニヤと笑っている。

 その後、ズタズタにされた制服を手にしたジャージ姿の奏さんと、怒りに震える愛生が戻ってきた。



 その日の放課後、私はすぐに学校を出てT字路の辺りに隠れる。

 しばらくして、ジャージ姿の奏さんと愛生がやってきた。

 愛生は奏さんと別れた後、私と合流する。

「俺が馬鹿だったんだ、ここまでエスカレートするなんて思ってなかった」

 帰り道、愛生はそうつぶやく。

 好きな子にちょっといたずらしようくらいの気持ちだったのが、気づけば髪や制服を切られるまでに。

「水面、あの2人を俺は許さない。俺がこんな事を言う事自体許されないのかもしれないけれど。いじめを収束させるためにも、あの2人をどうにかしないといけないんだ。頼む、力を貸してくれ」

 愛生は続けてそう言う。確かにあの2人をどうにかすれば、収束するだろう。

 原因は愛生かもしれないけれど、あの2人の行為は到底許される行為ではないし、前科に対する償いもさせなければならない、と私は思っていた。

 そして何より、愛生を焚き付けたのは私なのだ。

 奏さんに嫉妬して、愛生を焚き付けた結果がこれだ。

 女の命とも言われる髪をズタズタにされた奏さんを見て、私は罪悪感に苛まれた。



「全部私に任せなさい」

 責任は、全て私が負う。家に辿り着いた私は愛生にそう告げて中へと入る。

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