好きな人と一緒に過ごすクリスマス
奏さんを苛めから守る愛生が被害にあわないように影で暗躍しつつ過ごし、冬休みが始まった。
クリスマスに愛生を誘う勇気なんて、当然私にはない。
どの面下げて本命のいる男の人をクリスマスに誘えるのだろうか。
ただ、愛生もチキンな男だ。多分奏さんをクリスマスに誘うようなことはしないだろう、少し安心。
部屋でごろごろするよりは、まだカップルを見ながらいつか私も…と思ってた方が健全よね、とアルバイトをしようと考え、クリスマスイブに商店街のケーキ屋でクリスマスケーキの売り子をすることに。
時給がかなり高めだけど、まあクリスマスイブだしこんなもんよね…と思っていたのが間違いだった。
この寒い寒い冬に、何が悲しくてミニスカサンタ服を着ないといけないのか。
かじかんだ足をプルプル震えさせながらケーキの宣伝をする私は周りからトイレでも我慢しているのでは?と思われてそうだ。
けれど無駄なプロ根性で精一杯ケーキを宣伝する。
「ケーキいかがですかー」
「って、水面じゃん」
「な、あ、愛生」
気づけば目の前には愛生がいて、私の衣装をまじまじと見ていた。
何で愛生がこんなとこに。クリスマスイブの夜に男が一人で商店街をぶらつくな!
「サンタ服似合ってるね」
「か、か、帰れ!」
私は顔を真っ赤にして、宣伝用プラカードをぶんぶん振り回す。
愛生はハハッ、と笑うと立ち去って行った。
その後閉店までケーキを売りさばく。1つ余ってしまったので、私がもらうことに。
ついでに店長にサンタ服が似合うからとサンタ服まで貰ってしまった。どうしろって言うのよ。
家に帰ると、誰もいない。両親はデートに行ってしまったし、弟もデートに行ってしまった。
家で一人寂しくケーキを1ホール食べる女…悲しすぎる。
どうせなら、愛生にでもあげようと思って愛生の家のチャイムを鳴らす。
ドタドタドタ、と階段を降りる音がしたかと思うと扉がバン、と開き、
「奏さん!…何だ、水面か」
「失礼ね」
てっきり奏さんが自分に会いに来たと思っていた愛生は私の顔を見るやがっかりしだす。酷い。
「何か用?」
「売れ残りのケーキ。もらったから1つあげるわ」
愛生にケーキの箱を押し付けて立ち去ろうとするが、
「寂しいから、一緒に食べてってよ」
愛生はまるで子犬のようにそう漏らすのだ。これで落ちない私はいない。
「…しょ、しょうがないわね」
顔を真っ赤にしながら私は愛生の家にお邪魔する。
「サンタ服どうしたの?」
「貰ったわよ。多分もう着ないけどね」
「似合ってたけどなあ」
「……」
そんな事を話しながら、愛生と一緒にクリスマスケーキを食べた。
好きな人と一緒に過ごすクリスマスイブ、最高ね。
…男の人って、サンタ服が好きなのかしら。
それから1週間くらいが経ったあるお正月、私は何気なしにネットの掲示板を見ていた。
『××高校に通う奏〇奈子は毎日猫を殺している異常者!』
ふと、そんな文章とURLがセットになったコピペが目につく。ウチの学校、奏〇奈子…
私は何気なしにそのURLをクリックする。
それは奏さんのブログだった。『かなかな』という可愛らしいフォントのタイトルが特徴的なそれは、学校であった出来事や恥ずかしい詩などを書いているものだった。
なかなか奏さんは文才があるな、と感心していたが、コメント欄は酷いものだ。
恐らく、クラスの女子に見つかって荒らされたのだろう。
この事を愛生に伝えるべきだろうか。いや、やめておこう。
私は何も知らなかった、だから愛生にこれを知らせる義務なんかない。
その結果奏さんが悲しむことになろうと知らない。
それに、愛生はきっとこの件で奏さんから相談を受けているはずだ。
だったら、愛生が私に助言を求めるかしない限り、私は無視しよう。
愛生が私に助言を求めることなく、奏さんのブログ炎上事件は沈静化した。
愛生が私を頼らなくなったのが、どうしようもなく悲しかった。




