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好きな人の体操服は隠させない!

 今日は愛生よりかなり早く家を出る。

 と言うのも、現在奏さんはチャイムギリギリで教室にやってくるから、愛生は彼女と一緒に登校するためにそれに合わせているわけだ。

 ただ一つ忠告しておくけど奏さん、なるべくクラスメイトの陰口を聞きたくないからギリギリで学校に来ているみたいだけど、むしろいの一番に教室に来た方がいいわよ?



「見てみてこれ、チョー受ける」

「奏さんお亡くなりになりましたー」

 こんな風に、机に花瓶とか置かれたりしたくないならね。

 私に遅れること20分程、愛生と奏さんが教室にやってくる。

「美化委員が、間違えて置いたのかな」

 愛生はそう言って花瓶をロッカーの上に置いた。健気な事で。

 しかし、私が心配なのは愛生への被害だ。

 あの女子達は愛生も目の敵にしているだろう、いつ愛生に被害が及ぶかわからない。

 私はそれを全力で阻止しないといけないのだ。



 3時間目が終わった直後、活発な女子グループがこそこそとロッカーを探る。

 あれは位置的に愛生と奏さんのロッカーだ、一体何をするつもりだと見ていると、彼女達は体操服入れを盗み出してこそこそと教室の外へ出て行った。私はそれを追う。

 彼女達はゴミ捨て場にある焼却炉の裏に、愛生と奏さんの体操服入れを放り投げる。

「あはは、二人仲良く捨てられたって感じ?」

「焼却炉の裏に置いてたら、ゴミだと勘違いされて燃やされちゃうかもね」

 女子達はそう言って笑いあう。



「何やってるの、あなた達」

 私は彼女達の前に立ちはだかる。

「あ、正留さん。いやさー、正直葵君もさー、調子乗ってるからここらへんで痛い目見させようと思って、奏さんの体操着入れ隠すついでに葵君のも隠そうって思ってさ」

 私は放り投げられていた愛生の体操服入れを拾うと、女子グループを睨みつける。

「…愛生への嫌がらせは私がやるから、あなた達は関与しないで頂戴」

「は?何それ、あたし達だって葵君むかつくから嫌がらせしたいんですけど?」

 口で言ってもわからないなら、体で教えてやるまでだ。

 その辺にあった、廃部になった空手部が使っていた数枚積みあげられた瓦を、私は一撃で粉砕する。

「いいわね?」

「は、はい…し、失礼しました!」

 蜘蛛の子を散らすように女子グループは去って行く。女に暴力をふるう男はサイテーだと一方的に吊し上げにできるが、これが女同士ならそうもいかなくなるのだ。武道を嗜んでいて良かった。

 私のつるんでいる大人しい女子グループが自主的に愛生に嫌がらせするなんてことはないだろう。

 これで、少なくともクラスの女子からの愛生への陰湿な嫌がらせは防げるはずだ。

 私は愛生の体操服入れをこっそり元のロッカーに戻した。奏さんの?どうでもいいわ。



「あ、あれ…?」

 その後昼休憩、5時間目の体育のために奏さんは体操服入れを取り出すためロッカーを開けるも、隠されているのでそこにはない。

「体操服、無いの?別のクラスの子に、借りにいこうよ」

「…はい」

 愛生はそう言って、奏さんを教室から連れ出して別のクラスへ。

 私はそれを忌々しく見送った後、自分の体操服を手に更衣室へ行き着替えた。



 誰も奏さんに体操着を貸してはくれなかったようだ。

「…私、今日体育休みますから、大丈夫です、大丈夫ですから…葵さんも早く着替えないと、体育の授業に遅れますよ?」

 廊下で奏さんのそんな弱弱しい声が聞こえたかと思うと、彼女は職員室へと向かって行った。見学届でも出しに行くのだろう。

 私は茫然と廊下に立ち尽くす愛生に声をかける。

「誰も貸しちゃくれないわよ」

「水面」

 愛生は心底困ったように、縋るように私を見つめる。

「あんたが思ってる以上に私達は自分が被害者になりたくないのよ。ウチのジャージは名前が刺繍されてるから、奏さんに体操服を貸した人がばれちゃうわ。そしたらその人も奏さんと同じくいじめの対象になると思ってるの。奏さんがどんな被害にあったか、ってのは他のクラスにも広まってるからね。まあ、上級生には手を出さないだろうし、頼めば貸してくれるかもしれないけどね」

「水面…わかった、今から上級生の教室行って頼んでくるよ」

 奏さんのために、わざわざ上級生に頼みに行くなんて余程助けたいのね。腹が立つわ。

「…焼却炉の、裏」

 それだけ言うと、私は体育館へ向かう。



 結局、愛生も奏さんも、体育の授業には来なかった。

 その間に何があったかは知らないが、奏さんの表情はいつもより晴れやかだった。

 愛生は上手くいったようだ。ああ、悔しい。



 今日もまた、一人で下校。

 家に帰ると、愛生がメールが届く。

『なあ、奏さんへのいじめ、何とか抑止できないかな。いくらなんでもやりすぎだよ』

 どう返信したものかと悩んでいると、再びメールが送られてくる。

『ごめん、今の無かったことにしてくれ。自分で蒔いた種だもんな、俺の力でなんとかすべきなんだろう』

 これはもう私の助けなんていらないということなのだろうか。愛生が助けなんていらないと言っても、私は愛生をいじめから守るけどね。愛生だけは。

 携帯電話を閉じると、ベッドに寝っころがる。もうすぐ冬休みか、クリスマスにお正月、愛生と過ごしたいなあ、でも愛生と奏さんの仲はおかげさまで随分進展したようだ、今年のクリスマスは二人で過ごすのかもしれない。私は悔しくてベッドの中ですすり泣く。

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