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好きな人と一緒に夜の校舎を荒らしたわ

 文化祭は明後日。今日と明日は授業はせずに全て文化祭の準備に費やすことになっている。

 クラス全員が文化祭に向けてせわしなく準備。

 教室の端っこで健気に飾り付けを作っている奏さんを見つめる愛生を横目に、私はパンフレットを作っていた。お化け屋敷のパンフレットなのに何だかやけにファンシーな生き物を書いてしまったが、大丈夫だろうか?

「ここんとこ登校中に奏さんを見ないと思ってたら、誰よりも朝早く来て作業をしてるらしいね」

「頑張るわね」

 そう、奏さんはここの所本当に頑張っている。敵ながら天晴と言ったところかしら。

 今日は奏さんに付き合って愛生も遅くまで残るというので、私も一緒に残る。

 のこぎりで木材を切る愛生は、なかなか様になっていて格好良かったわ。



 下校時刻まで残って、奏さんと愛生と一緒に学校を出て、T字路で別れて、愛生と私達の家に帰って、今は夜。

 部屋で恋愛小説を読み、そろそろお風呂にでも入るかしらと本を閉じた矢先、携帯電話が鳴る。

「もしもし水面、夜の学校に忍び込もうと思ったけど、一人じゃ怖いからついてきてよ」

 私は部屋の窓のカーテンを開けて、そこから愛生の部屋を見る。こんだけ距離が近いなら、直接窓から話しかけて欲しかった。丁度さっきまで読んでいた恋愛小説の主人公と幼馴染が、そういう関係だったのだ。

「…あんたの考えてることがわかる自分に腹が立ってきたわ」



 11月の夜は寒い。ジャンパーとマフラー、手袋をつけた私はコートを着込んだ愛生と一緒に夜の校舎へと向かう。なんだか愛生の服装、露出狂みたい。

「宿直とかいるかな」

「そのために私を呼んだんでしょ、表向きは品行方正な」

 優等生として通っている私なら、仮に教師に見つかっても忘れ物をしちゃって…とか言えば許される。

 更に一人で来るのが怖いからと愛生を連れてきたという言い訳も通る。

 とはいえ杞憂だったようで、私達はあっさりと校舎に忍び込み、自分達の教室へたどり着いた。

「あらかじめ教室の鍵は盗んでおいたのさ。さて、やりますか」

 愛生は手始めに完成されていたお化け屋敷の看板を叩きつけて壊す。

 そう、私達はクラス全員で準備してきたセットを壊しに来たのだ。

 私は奏さんが作ったお面を叩きつけて、何度も何度も踏みつける。

 愛生は無差別に、私は奏さんの作ったものを集中的に破壊する。

「そろそろやめた方がいいわ、これ以上やると明日中やっても文化祭に間に合わないかもしれない」

「そうなのか?まあ水面が言うならそうなんだろうな、帰ろう。付き合わせて悪かったな、ファミレスで何か奢るよ」

「…パフェで」



 翌日、私達が教室につくと予想通り暗い空気に包まれていた。

 ビリビリに破かれた暗幕、粉々のお面や看板。

 奏さんは泣きじゃくっていた。ああ、折角頑張って作ったのにね、可哀想にね。

 その後はクラス全員が必死に修復作業に取り掛かり、午後10時にようやく準備は完了した。

「…すう」

 疲れて眠ってしまった奏さん。

「それにしても誰が犯人なんだろうね、ホント許せない」

「奏さんじゃない?彼女全然クラスに打ち解けてないし、今日も第一発見者だったらしいわよ」

 犯人が私達とも知らずに、友達の女子はそんな事を言って奏さんを疑いだす。

 今日一日こっそりネガキャンした甲斐があったものだ。



 文化祭当日。

「お、お化け屋敷やってます!どうぞ楽しんでください!あ、葵さん」

 お化け屋敷の受付嬢をしており、可愛らしいカボチャのお面を被った奏さんに愛生は声をかける。

「その、もうすぐ演劇部がロミオとジュリエットやるんだけど、一緒に見に行かない?」

 本校の演劇部は全国屈指の実力らしい。そんな彼等が演じるロミオとジュリエットはさぞ素晴らしい出来だろう、デートにはもってこいだ。

「あ、葵さんとですか?で、でも私まだここにいなきゃいけませんし」

「私が代わりにやるわよ。奏さん文化祭の準備一番頑張ったもの、今日くらい楽しみなさい」

 私は当番を代わりにやると申し出た。そう、今日くらい精々楽しみなさい。

 文化祭が終わったら、あなたの周りは敵だらけになる。いや、敵だらけにする。

「水面さん…あ、ありがとうございます。えへへ、実は楽しみにしてたんですよね、演劇部の」

 私にペコリと感謝をすると、愛生と奏さんは劇を見に行ってしまう。

 本当は私だって愛生と一緒にロミオとジュリエットを見たかった。

 涙をこらえて、私は営業スマイルで受付嬢に勤しむのだった。



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