表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

好きな人を勇気出してデートに誘ったわ

 夏休みももうすぐ終わり。夏休み最後にして最大のイベントがこの夏祭り。

 そんな夏祭りを、私、正留水面は幼馴染の葵愛生と一緒に過ごすことになった。



「…来週、夏祭り一緒に行かない?」

 先週愛生にデートの予行演習と、夏休み何もないのは寂しいということでデートしようと言われて、その日見る予定だった映画を一緒に見た。

 しかし映画を見ただけで帰るというデートと言っていいのか疑問の残る結果に。

 こんなんじゃ私は満足できない、だから帰りに勇気を出して言ってみた。

 その時の愛生の顔はかなり困惑していたが、

「いきなりだな。まあ、いいぜ」

 私もデートの予行演習がしたいと思われたのか承諾してくれた。言ってみるものだ。



 というわけで、お祭りの入り口となる神社への道の鳥居で待ち合わせ。

 残念な事に憎き恋敵である奏さんはまだ田舎にいるそうよ。見せつけてやりたかったのに。

 ちなみに愛生は家が隣同士なんだからそこから一緒に行けばいいじゃないかとふざけたことをぬかしたわ。

 一体デートを何だと思っているのかしら。ムードもへったくれもないじゃない。

「ごめんなさい、着付けに時間かかっちゃって」

 待ち合わせ場所へ行くと既に愛生がいた。

 浴衣の着付けは意外と難しく、母に手伝ってもらって10分程遅れてしまった。

「似合ってるね」

 遅刻をした私を咎めるでもなく浴衣を褒めてもらえるというのは乙女冥利に尽きる。

「…ありがとう。愛生も、似合ってるわよ」

 甚平というのだったかしら、愛生のそれはお世辞抜きにかっこいいと思った。

 惚れた女はどんな服装でもかっこいいと思ってしまうのかもしれないけれど。

「とりあえず、どうする?」

 愛生はプランを考えていないようだ。この間読んだ本によると、例え女の方からデートを誘ってきてもプランは男が練るものらしいが、デートプランを考える楽しみを男に取られてたまるか。

「花火大会まで3時間くらい、ぶらつきましょ」

 まあプランといってもそんな大層なことじゃないけどね。

「3時間もぶらつけるかなあ」

「案外すぐよ」

 縁日の3時間なんて、本当にあっという間。



 まず愛生が目を付けたのはりんご飴。

 最近はみかんやらパインやら色々な種類があるようね。

「水面、りんご飴食べようよ。おごるからさ」

「自分で出すわよ。それよりいい加減5千円返しなさい」

「…ごめんなさい。利子ってことで、おごらせてよ」

「それなら、まあ」

 今日は大目にお金を持ってきたのかようやく愛生は借りていた5千円とりんご飴を渡してくる。

 おごってもらった身分で文句言うのは筋違いとわかってはいるけれど、りんご飴は食べにくい。

 べっこう飴は硬くてガリっと噛まないとなかなか食べられないけど、顔にべたついてしまう。

 べっこう飴を食べきったら中身はただの安物のりんごだし。

 こういう無粋な事を考えてしまうのは私が年をとった証拠かしら?

 女の子にはパイン飴とかの方がいいわね、きっと。

「水面、舌見せてよ」

「…はい」

 愛生に言われるがまま舌を出す。きっと真っ赤になっていることだろう。

「それじゃあ俺も」

「毒々しいわね」

 愛生が食べたのは青りんご飴。りんごの色は緑でも、外を固めるべっこう飴は真っ青で

 愛生の舌も真っ青。ゾンビみたい、笑っちゃうわね。




「おう!お前らデートかよ!ひゅうひゅう!」

 りんご飴を食べ終えてその辺をぶらぶらと歩いていると声をかけられる。

「やあ、さなぎさん」

 愛生が会釈する。毎度お馴染みヤンキー少女のさなぎさんだ。

 愛生とさなぎさんが喋っていたところは見たことがなかったけど、いつのまにか知り合いになっていたのか。

「そうだ、出店やってるんだけど遊んでけよ」

 確かここの出店を仕切っているのはあの近所に事務所のあるやーさんだったか。

 どちらかと言えば彼女の見た目はマフィアっぽいのに。

「いいけど、何やってるの?」

「ハムスター釣り。ひまわりの種を餌にハムスター釣るんだ」

「……」

 私も愛生も絶句。そんなものが存在していたなんて。

 いくらなんでも問題じゃないかしら?

 しかし怖いもの見たさ、私と愛生は彼女についていく。



 ハムスター釣りのコーナーへ。

 本当にハムスターが大量にいる。単体なら可愛らしいけれどここまでくると怖いわね。

「これを、こうやって、あ」

 さなぎさんがお手本を見せようとするが、途中で落としてしまう。

「大丈夫大丈夫、受け身ができるし下はふわふわな素材だから骨折とかしないよ」

 そういう問題なのだろうか?

「うーん、まあやってみるか。水面は?」

「私もやってみるわ」

 実は昔ハムスターを飼っていたことがある。2年半も生きたのだからちゃんと飼えたと言っていいだろう。

「まいど!一人400円になりやす!」

「400円?随分と安いんだね」

 私の分もあわせて800円をさなぎさんに渡しながら愛生は尋ねる。

 確かに祭り価格で400円でハムスターというのは安いのではないか。

「そのかわりゲージとかエサとかで儲けるんだよ」

 なるほどよく見るとゲージやらエサやらが別売りとなっている。

 これを全部買うと結構な値段になりそうだ。

 二人して糸を垂らすと、ハムスターが寄ってきてそれを口に含む。

 …いや、私のにかかったのはハムスターじゃない気がする。大きすぎる。

 重たくてなかなか釣り上げるのが難しい。私が苦戦している間に、

「やった。ねえさなぎさん、これなんてハムスターなの」

「ハツカネズミだよ」

「……」

 愛生は見事ハツカネズミを釣り上げたようだ。

 私も何とか巨大なハムスター?を釣り上げる。

「水面のそれ、でかすぎやしないか?」

 本当にでかい。20cmは超えている。

「そうね、本当にこれハムスターなの?」

 ハムスターに混ぜてハツカネズミを入れるような店だ、これもひょっとするとドブネズミかもしれない。

「おお、良かったな。大当たりだぞそれ。クロハラハムスターっていうんだ」

 さなぎさんはカランコロンとベルを鳴らす。こんな大きくて気性も荒いハムスター私に飼えるかしら?

 その後ゲージと餌をおまけで貰い、花火が終わった後に引き取りに来るということでその場を後に。



 そして型抜きをやったり(こう見えて地元では型抜き荒らしの女として名が知れている。毎年稼ぎ所だ。愛生にちょっと引かれたかもしれない…)、射的をやったりとお祭りを楽しみ、

 花火大会の時間が迫っていた。

「そういえばかなり昔、こうやって二人でお祭り行った時迷子になったよね、あの時かなり花火がよく見える場所にたどりついたっけ」

 そう、私はそれを鮮明に覚えている。小学2年、私と愛生が自然と一緒にお祭りに行っていた時期だ。

 いつから一緒に行かなくなったのかはもう覚えていないけれど、あの時見た花火はすごく綺麗だった。

「…場所は覚えてるわ。そこに行きましょ」

 私は愛生の手を掴むと、その場所へと駆けだす。

「ちょ、水面」

「いいじゃない、予行演習でもデートなんだから、これくらいはしないと」

 手をつなぐくらい、私にだって許されてるはず。



 5分くらいでその場所に辿り着く。私達以外誰もいない。秘密の場所ってわけ。

 丁度花火が始まった。ヒュー、ドカーンとキラキラした花火。とても綺麗。

「なんというか、昔は花火見るだけでわくわくしたけど今は全然だね。何が楽しいんだろう花火って」

 予行演習とは言えど愛生はとんでもないことをぬかす。ムードぶち壊しだ。

「こういうのは、好きな人と一緒に見てこそ楽しいものよ」

「それじゃあ俺も水面も楽しくないってことか」

「…そうね。ばか」

「何か言った?」

「何でも」

 こんな事を言われてしまうのは、私には望みはないのだろうか。

 それとも本音を言われるというのはある程度心を開いてくれている証拠、ワンチャンあるのだろうか。

 願わくば来年は、愛生が私と一緒に花火を見て楽しんでくれますように。



 クロハラハムスターにはマリーという名前をつけた。…オスだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ