好きな人のためなのか自分のためなのか
「ところで水面、もうすぐ夏休みでしばらくは逢えなくなるから、その前に奏さんの好感度を上げようと思う。そのためには自作自演も辞さない。何かいい案はないか?」
愛生がそんな事を言いだした。
夏休み前の期末テストが終わり、私、正留水面と幼馴染の葵愛生、恋敵の奏加奈子がゲームセンターで打ち上げをし、解散した後の出来事だった。
ここで言う自作自演…とは、愛生が恋の相手、奏さんをわざと不幸な立場にし、それを自分で救うという卑劣極まりないものだ。
過去にこの男は靴を隠したり傘を隠したり、不良に襲わせたり(これは失敗したが)している。
そういう男なのだ、こいつは。
でも好きなのだ、私は。
だからこいつの行為を見逃すどころか協力している。
私はきっと心の奥底で恋敵の奏さんが不幸になればいいと思っている。
取り返しのつかないことになってしまえばいいと思っている。
愛生の事を屑で変態だと評していたが、屑なのは私の方だったのだ。
だって愛生に聞かれる前から既に私は作戦を考えていたんですもの。
「そうね…カンニングの疑いをかけるというのはどうかしら」
「カンニング?なるほど、テストもあったし丁度いいな」
私の案に愛生は食いついてくる。こういう事でしか興味を持たれない、屑な私にはそれでも十分なのだろう。
連休を挟んで月曜日。テスト返却の日だ。
今日はどの教科も全部テストの返却と解説に当てられる。
私と愛生、そしてクラスメイトの久我君にも協力してもらい、休憩時間等に先生に聞こえる場所で、
「奏さんの点数見た?不自然に高かったわよね」
「カンニングでもやってんじゃねーの?」
「テスト中もキョロキョロしてたよな」
などと言う会話をした。先生だけでなくそれを鵜呑みにした馬鹿な生徒がその話題を尾びれをつけて話し始める。マーケティング成功だ。
「よし、それじゃあ採点に不服があるやつは個別に担当の授業の教師まで聞きにいけ。今日はこれで終わりだ。…それと奏、職員室に来い」
帰りのHRで担任の教師がそう言う。放課後になり、奏さんは何なんでしょうか?と首をかしげながら職員室へ。予定通りだ。
そして10分後、涙を浮かべた奏さんが教室に戻ってくる。
愛生がそれをなだめて事情を聞いて、怒った私達は職員室に行って抗議。
無事に奏さんの容疑を晴らして奏さんは愛生に感謝してめでたしめでたし。
「いやー、流石は水面。完璧な作戦だったね」
「…そうね」
その後奏さんと別れて、私と愛生は隣同士の自分達の家へ歩き出す。
愛生は作戦の成功にガッツポーズをするが、私の気分は全然晴れない。
この気持ちは何なのだろうか。
何も悪くない奏さんにカンニングなんて疑いをかけたことへの罪悪感なのか。
それとも奏さんのカンニング疑惑が晴れてしまったことへの残念感なのか。
あのまま奏さんがカンニングした事になれば、彼女はどのような処分を受けただろう。
本気で二人の恋を邪魔したいなら奏さんに伝えればいい。
靴を隠したのも傘を隠したのもお弁当を盗んだのも不良に襲わせたのもカンニングの疑惑をかけようとしたのも全部愛生のやったことなんだと。
そうすれば多分奏さんは愛生を嫌うだろう。
だけどそれで愛生が嫌われても、それに私は漬け込めない。
そんな事をした時点で私も愛生に嫌われるからだ。
私は愛生が自滅して奏さんに嫌われる、そんな最低な事を願っていた。




