3.電話の相手
連れられた場所は、S高から徒歩35分のところにある、ちょっと大きい家。
「俺の友達ん家。ここに住ませてもらう」
ぽんと背中を叩かれても…。展開が早すぎやしないか?
なんでも、兄ちゃんの引っ越し先は会社が手配していたみたいでいつでもOK状態らしくて、向こうに馴れる為にはなるべく早い方がいいわけで。
今に至るのか。
ピンポン
兄ちゃんの指がインタホンを押した。数秒、間があって聞いたことある声が。
「おぃーっす……なんだ、俊明」
ドアを開けながら気だるそうに言う男。聞いたことある声……?
「わりぃな隼人。こいつ、祐樹」
ちら、と細い目でこちらを見る。ふ、と口元を歪めた。
「この前の電話の……。はじめまして」
電話の…?
あっ!この人〈神城〉!?
「俺、神城隼人。よろしくな」
す、と右手を差し出された。俺もあわてて右手をだした。握手。
「じゃ、隼人よろしく!もう電車時間だから行くな!祐樹、すまんな」
最後に兄ちゃんは、俺の頭を撫でていった。兄ちゃんの後ろ姿を見送る。
「さ、入りなよ。少し冷える」
神城さんに促され、俺は中へ入った。
神城さんの家は広かった。簡単に家のなかを案内してくれたあと、俺の部屋に連れられた。俺の部屋は二階だった。
「ここは君の部屋。自由につかいな。もちろん家の中も自由にな」
「あっありがとうございます」
神城さんは少し笑って、部屋から居なくなった。肩から提げていた大きなカバンを床におろす。
「広いなー」
俺の部屋も、それなりに広い。とりあえず俺は、荷物の整理にとりかかった。
「なに?バイトするの?」
晩飯中、神城さんとの会話。
「はい、まぁ。居候させてもらってる訳だし、生活費とか俺の分は払いますから」
神城さんは箸を置いて一息ついた。
「いらない」
俺を見て言ったから飯の話じゃないんだろう。
「へ…?」
「金はいらない。別に、不自由してないから」
おぉ金持ち発言。
「まぁバイトしたいならいいと思うけど、S高生なら勉強は怠るなよ」
「わかってますよ」
神城さんはにこりと微笑み、また米を咀嚼し始める。
笑顔に少しきゅんとしたのは、内緒。
神城隼人
俊明と同い年