地球を救った子
西暦202Ⅹ年、地球は大ピンチを迎えていた。
地球人は知らないと思うが、地球以外にも知的生命体が存在する。
その星は、地球より高度な文明を持ていて、地球の存在をも確認している。
「地球人は野蛮だ」
地球人に対する評価は、みな同じだ。地球人は、自らの手で母なる自然を破壊しつくして、いつの日にか必ず宇宙にまでその災いをもたらすであろうと、みな畏怖している。
そこで、地球殲滅作戦が遂行されようとしていた。
「惑星破壊爆弾」
ほんの10gほどの爆弾で、地球サイズの惑星なら、粉々に砕け散ってしまう。
殲滅作戦の指揮官である大統領は、この爆弾を、地球の日本という国に送り込んだ。
この爆弾は、日本の通貨である「10円硬貨」に良く似せて作られている。
起爆方法は簡単、「爆発しろ」と大統領が思うだけで爆発するのだ。
以下、10円爆弾の追跡レポートである。
10円玉は、とある高校の通学路に落ちていたようで、高校生らしき男の子に拾われていく。
その10分後、街のコンビニで缶ジュース代金として支払われ、レジに入る。
レジに入っていたのも束の間、1時間後には、おつりとして主婦らしき子連れの女性の財布に入る。
翌日、お手伝いのお駄賃として、主婦から子供の手に。そして子供の貯金箱に入る。
そこから先は不明――というのも作戦の中止が決まった。
大統領は、地球を殲滅するに値しない。と判断した。
○
私の名前は、遠藤 晴海。主婦で、娘と夫と義母の4人で暮らしている。
主婦といっても大変なの。娘を幼稚園に送り迎えしたり、義母も寝たきりの状態なので、つきっきり。夫は薄給だが帰りも遅く、家事は、ほぼすべて私がまかなう。
この間の休みに、たまには家族で食事でもしようって夫にいっても、
「疲れてるし、母さんもいるから」
って言われた、いい加減息がつまりそう。
私がこんなに尽くしているのに、こんなに……。
「おかあさん、かたこってる? たたこっか?」
と早苗が言ってくれる。子供だけが生きがい。
義母は、二年前に脳溢血で倒れて一命を取り留めたが、それから寝たきりになってしまっていた。義母が元気だった頃は、私も働きに出ていたし、娘の面倒は義母が見てくれていた。あの頃が懐かしい、あの頃に帰りたい。
その日は、朝から義母の調子が悪かった。ここ数日、春の陽気が続いていたが、今朝は急に冷え込んだからだろう。
「おばあちゃん、だいじょうぶかなぁ?」
朝から咳き込む義母を見て、 早苗が心配していた。
「大丈夫よ、ママとお医者さんに診てもらって、お薬もらってくるから」
「おくすりがあれば、かぜがなおるの?」
「そうよ、お薬があれば病気が治るのよ」
「じゃあ、おくすりで、またおばあちゃんといっしょに、こうえんでブランコにのれるようになる?」
健気に寝たきりの義母を気遣う娘に、当惑した。
私は疲れきってた。風邪をひいた母に、いっそそのまま亡くなってくれたら……。と思ってさえいた。
しかし、早苗が義母が元気でいた頃を夢見ていたのかと思うと、少し胸が痛んだ。
「お婆ちゃんが歩けるようになるお薬は、とても高いから買えないのよ」
早苗を諦めさせようと、とっさにうそをつく。
すると早苗は、自分のお部屋にトコトコ行って、なにやら持って帰ってきた。
その手には、豚の形をした陶器製の貯金箱が握られていた。
「ねぇ、おばあちゃんのびょうきのおくすり、これでたりる?」
そういって早苗は、豚さんをトンカチで殴りつける。ガチャン。
その中には、50円、10円、5円、1円がいっぱい詰まっていた。
「早苗……」
私は、早苗を抱きしめた。
こんなに小さい子が、一生懸命にお手伝いして貯めたお金を、義母のために差し出してくれている。私は、自分が恥ずかしくなった。
健康で生きているだけでも感謝しなきゃ。そう自分を励ましたら、また頑張ろうという気持ちが湧いてきた。
私は、この子に助けられた。
ありがとう、早苗。
○
なるほど、地球は救われたのである。




