ホモの行進
円山の山道に配置されている地蔵の数は知らないが、それでも夜の山道のあちこちに地蔵が顔を覗かせているのは少々不気味だった。
「うわぁ・・・・・ちょっと、怖いんだけど」
どこか女口調の鈴木。
気持ち悪い事極まりない。
「うるせぇ。2m以上離れてろ」
「そんなこと言うなよ。死んだらどうすんの」
「お前の遺志をついで学校に広まってるあの噂を死ぬ気で流布させる」
「さすが~!心の友よ!」
言った後、鈴木は黙った。
「・・・・・しかし、こんな夜の山道からも神宮祭は見えるんだな」
私が横を向くと、木と木の間から神宮の祭の華やかな明かりが見えた。
「・・・・・・鈴木、一つ提案がある。」
歩を止めて私が言うと、石を蹴って転がしていた(俺に当たった数、登山中だけでも驚きの三回)鈴木が顔を上げた。
「な、何だ?」
「俺は今、ムショウに神宮祭へと足を運びたく思う。甘いりんご飴、与えられし天命を存分に発揮する籤。俺は今、それに気をとられてしょうがない。こんなくだらん妖怪騒ぎに時間を使ってるなら、まだそれに時間を使っている方が有意義と言えるだろう」
俺の問いにコクコクと頷く鈴木。
「さっさと下山してりんご飴食おうぜ」
足がガタガタと震わせている様子である。
なんで来たんだ、お前。
「さ、下山・・・・・」
しようか。
そう言おうとした瞬間である。
後ろを振り向くと、そこには浴衣を着て天狗の面を被った人間が仁王立ちしていた。
「・・・・・・」
私はその時、吃驚しなかったと言えば嘘になる。
しかし、
「・・・・・・ハロー。ないすとぅみーちゅう」
衝撃のあまり外国人のフリをする鈴木には叶わなかったが。
「おぅ、いぇぇす。ばい」
そして全速力で下山する鈴木の分速はまさに、韋駄天も負けを認めざるをえないだろう。
「・・・・・・置いてけぼりかい」
特に恐怖心も何も無いのだが、とにかくこいつから離れたい衝動に駆られる。
こんなに脳が拘束で機能したのは三年ぶりかもしれない。
「・・・・・・・・あのう、そのお面、素敵ですねぇ。神社で買ったんですか?」
「・・・・・・く」
「はい?」
「くはは、あっははははは。」
突然に爆笑しだす天狗。まさかの雌である。
そうか、きっとこいつは妖怪だから俺の言う事やる事が全て面白く感じるのか。
「ええと、何が可笑しいんでしょうか?一+一は2ですか?三+参は9?アアレェ、二乗しちゃったぞう、なんつって」
「なんつってーだって。あはははは」
むぅ。
「あのう、貴方の住処に入ったことはお許しいただきたい。私は礼儀がなってない屑なので、どうか目を・・・・・」
「はは。やぁだなぁ。君、××君だろう?」
そう言いながら、天狗は後ろ髪で結ばれているのであろう紐を解いて、お面を外した。
私はお面を外した彼女の整った顔を見て、私の記憶の中で一番最も新しい名前を乱暴に掴みだした。
「・・・・・・あなたは、由真さん?」