噂話
『円山に妖怪が出る』という噂が出始めたのは、ちょうど北海道神宮祭の日だった。
男女数十人が手をつないで仲良しこよしの列を作りながら山を登っていたところ、いきなり狐の面を被った浴衣の美女が現れ、鼻息荒く話しかけるといきなり消えたという。
「お前・・・・・恥ずかしくねぇの?」
これは俺。
「いや。いやいやいや本当なんだって。いきなり、体が鴉になってさ」
これは俺の友達の阿呆、鈴木の証言。
「鴉って・・・・・」
そして今日、俺は朝来るなりこんな馬鹿げた話を何百回と聞かされうんざりとしていた。
「・・・・・訂正するからちょっと待っててくれ。ええと、『いきなり消えた』を『鴉に』・・・・・」
携帯をカチカチと動かす私をみた鈴木は、なんとも形容しがたい顔をした。
「何言ってんのお前?」
お前もな。
「お前含む俺のクラスの馬鹿共の噂を分かりやすく纏めてんだよ。ありがたく思え」
「いや、だから本当なんだって。」
「二回も同じ事を言ってんじゃねぇ。登校の時に何回言われたことか」
少なくとも10回以上。
「だから本当・・・・」
睨んだ私を見てか、鈴木は一度言葉を切らし、
「・・・・・今日、円山行かない?」
・・・・・散々言葉を考えた結果がそれかよ。
「・・・・・まぁ。いいよ、行こう。」
私が答えると、
「あ、マジで?」
予想外にも嬉しそうな反応をした鈴木。
ホモかこいつ。
「ただし。今日俺と登山してなんも無かったらこの高校に広まってる噂を全部キレイさっぱり除外しろ」
私が出した交換条件に、簡単に頷く鈴木であった。