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Room  作者: 揚羽(ageha)


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3/6

(第三章)

 駅からマンションまでの道を急ぐ。

 息が切れていることだけは、分かる。

 信号。

 横断歩道。

 エントランス。

 身体が、勝手に進んでいた。

 オートロックを抜ける。

 ロビーの照明が、やけに明るい。

 誰もいない。

 それでも、視線のようなものを感じた。

 郵便受けの前で、立ち止まる。

 いつもなら、広告を流し見して終わる場所だ。

 今日は、違った。

 扉を開ける。

 紙の感触がある。

 チラシではない。

 封筒だった。

 白い。

 宛名も、差出人もない。

 軽い。

 だが、持ち上げた瞬間、わずかな重さを感じた。

 周囲を見る。

 誰もいない。

 息を止めたまま、封筒を引き抜く。

 指先が、少し震えている。

 中を見る前に、バッグの中のレシートの感触がよみがえる。

 これは、違う。

 そう思った。

 郵便受けは、外と、家のあいだにある。

 封を切る。

 中には、便箋が一枚。

 手書きだった。

 文字は整っていて、癖がない。

 読み進めるうち、胸の奥が、静かに揺れた。

 特別な言葉は、書かれていない。

 好意。

 関心。

 距離を詰めようとする、丁寧な文章。

 ただ、いくつかの記述が、引っかかる。

 帰宅の時間。

 服装。

 最近の様子。

 偶然と呼ぶには、数が多い。

 誰かが、見ている。

 外から。

 それとも――。

 封筒を、バッグに押し込む。

 立ち止まらない。

 考えない。

 エレベーターへ向かう。

 背中に、何かが張りついている感覚が残る。

 振り返らない。

 振り返ったら、何かを見る気がした。

 エレベーターが到着する。

 扉が開く。

 誰もいない。

 一度だけ後ろを確かめて、乗り込む。

 扉が閉まり、上昇を始める。

 軽い振動。

 機械音。

 天井の防犯ミラーが、視界の端に入る。

 見ない。

 見る必要はない。

 そう思った瞬間、ミラーの中で、何かが動いた。

 一瞬。

 人影のようなもの。

 自分の、背後。

 心臓が、強く打つ。

 振り返る。

 誰もいない。

 エレベーターの中には、自分しかいなかった。

 もう一度、ミラーを見る。

 何も映っていない。

 錯覚だと、処理しようとする。

 それでも、背後に余白がない感覚だけが、残った。

 階数表示が、ひとつずつ増えていく。

 その間ずっと、

 自分の立っている位置が、

 誰かと重なっているような気がしていた。

 扉が開く。

 逃げるように、外へ出る。

 廊下は、いつも通りだった。

 照明。

 ドア。

 非常口の表示。

 現実だと、分かる。

 それでも、心拍は下がらない。

 部屋の前に立つ。

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