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Room  作者: 揚羽(ageha)


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1/6

(第一章)

 目を覚ましたとき、何時なのか分からなかった。

 夜が終わったのか。途中で途切れたのか。

 その区別が、つかない。

 夢を見ていた気もする。

 だが、内容は残っていなかった。

 眠りが浅かったという感触だけが、身体に残っている。

 枕元に手を伸ばし、スマートフォンに触れる。

 画面が点く。

 光が、いつもより強く感じられた。

 時刻は早い。

 目覚ましは、まだ鳴っていない。

 指が滑り、ヘルスケアの画面が開く。

 昨日の歩数。

 はっと目を覚まし、布団を掛けたままベッドの縁に腰を落とした。

 数字を見た瞬間、胃の奥が縮んだ。

 もう一度、桁を確かめる。

 平日の平均を、明らかに超えている。

 通勤と買い物を合わせても、届かない数だった。

 画面を伏せる。

 再び見る。

 数字は変わらない。

 その下に、移動の記録が表示されている。

 細い線が、地図の上をなぞっていた。

 見覚えのない場所だ。

 駅名が違う。

 道の形が、記憶と合わない。

 拡大する。

 縮小する。

 もう一度、拡大する。

 息を止めていたことに気づき、慌てて吸い込む。

 胸の奥が、少し痛んだ。

 昨夜のことを思い出そうとする。

 帰宅した。

 バッグを置いた。

 服を脱いだ。

 そこから先が、ない。

 抜け落ちている。

 布団を出て、玄関へ行く。

 鍵は閉まっている。

 靴も、昨日のままだ。

 それでも、胸の内側が落ち着かなかった。

 洗面所の照明を点ける。

 鏡を見た瞬間、視線が止まる。

 端の方に、跡がある。

 水滴かと思った。

 だが、形が残っていた。

 指の跡のように見える。

 五本分ある気もする。

 自分の肩より、少し高い位置だった。

 一歩、近づく。

 輪郭が、はっきりする。

 その瞬間、歩数の数字が頭をよぎった。

 蛇口をひねり、水をかける。

 跡は流れ落ち、すぐに消えた。

 消えた。

 残らなかった。

 ただの汚れだったのだと思う。

 そう言い聞かせる。

 顔を洗う。

 冷たい水が、皮膚に広がる。

 それでも、何度も同じ場所を見てしまう。

 何も映っていない鏡の端。

 そこに、何かがあったという感触だけが、残っていた。

 キッチンへ行く。

 冷蔵庫を開ける。

 卵。

 野菜。

 ペットボトル。

 ビール缶。

 変わりはない。

 ただ、缶の位置が違っていた。

 右奥に並べていたはずのものが、左へ寄っている。

 一本だけ、角度がずれている。

 本数は、減っていない。

 扉を閉める。

 もう一度、開ける。

 変わらない。

 最初から、こうだったのか。

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