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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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98/116

98.アンチノミー

村へ向けて馬を走らせながら、俺はかつてエルマとこの道を通った日のことを思い出していた。

無口で、箱庭のような世界に絶望していた少女。

今ごろゴイとうまく旅を続けているだろうか。

もう関わることはないだろうが、彼らの未来を知ることができないのは少し寂しかった。


「でも全部NPC……」


俺は、この世界を“偽物”だと再定義した。

本当の俺は水槽に沈められ、脳幹に何かを植えられ、

この世界を疑似体験させられているだけなのかもしれない。

想像もつかない技術でリアルな世界を体験しているだけ。

この殺戮も、ゲームのNPCというプログラムデータを消しているようなものだ。

気に病むのは馬鹿げている。


「待て……俺が偽物というのもありだな」


カゾヤマノリトの記憶を学習させられた電子データ。

その場合、俺の“現実”はここで、本物の殺戮を行っているとも言える。

本物とは、観測の軸をどこに置くかだ。


だが、この考え方の方がまだ救いがある。

必死に生きてきたこの世界での体験や感情を、

“偽物”だと否定せずに済むからだ。


実際のところ、置かれた状況が何なのかは断定できない。

自尊心を守るために「騙されている」という疑念を拒絶したくて、

偽物の世界だと信じたい。

かといって、リッカが偽物だとは絶対に思いたくない。


偽物と信じることにした動機は、

――殺戮の免罪符欲しさ。

本当は再定義などできていない。


「まあ、いいか。偽物なら、そのうち翼神が種明かししてくれるだろう」


今はトーチとロガを救出する。それだけだ。


---


村は燃えていた。


入口にたむろする一団を薙ぎ払い、馬を降りて岩陰に隠れる。

ほどなくして、村の入口から騎馬が飛び出してきた。


お前らに死因は分かるまい。

「さよなら」と呟き、消し飛ばす。

数回繰り返したが、もう誰も出てこなかった。


門に張り付き、中を伺う。


広場には――

住民の死体が山になっていた。


見える限りの建物は炎に包まれ、人影はない。

ジェイやロガが「大盾で身を守る」と話していたが、

防御力ゼロの俺は狙撃が一番怖い。

慎重に広場へ近づく。


見知った顔の遺体。

めちゃくちゃに踏み荒らされたエルマの花壇。

燃える宿屋の壁に描かれた、あの大きなニョッキの看板。


急激な吐き気で膝をつき、胃液を吐いた。


---


胃の逆流が収まり、馬を取りに戻る。

最初に吹き飛ばした一団が最後の部隊だったのか、

村には相変わらず人の気配がない。


もたもた走っていては狙われる。

トーチの家まで駆け抜ける。


そこには――

トーチとロガ、そして数名の兵士の遺体。


傷だらけのロガの腹には短槍が突き立てられていた。

最後まで気丈に振る舞ったに違いない。


「これが公爵の帳尻合わせか……

俺も合わせにいくから、待ってろよ」


---

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