97.狂気の支配
馬の足音が近づき、俺たちがいた場所で止まった。
サギタの遺体を見つけたのだろう。
……あの三人組。フード。
まさか――アズィか。
「隠れても無駄だ! さっさと出てこい!」
フードの隙間から、決して忘れられない顔が覗いた。
「行こう」
俺とリッカは立ち上がり、アズィの方へ歩いた。
ギャレも観念したように姿を現す。
「無事で良かったぜ。こっちはひでえ有様だがな」
フードの二人は馬から降り、アズィの次の指示を待っている。
「アズィ、あんたは追われてるんじゃなかったのか?」
「逃げる途中で、フラフラ歩いてるお前らを見つけたからリッカを迎えに来たんだよ。
それより――なんだコイツは? 例のイセカイジンか?」
俺は頷いた。
「ギャレ、お前か?」
「はい。煩かったのでつい」
「アズィ、ギャレはリッカを攫う気だ」
「ほう、俺の代役でも始めるつもりか。……リッカ、こっちに来い」
「……」
腹立たしいが、リッカにとってはギャレよりアズィの方がまだマシだ。
俺はそっとリッカの背を押し、リッカは黙って従った。
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「さあ、ギャレ。俺はどうすりゃいい?」
ギャレは緊張を隠せずに答える。
「王は、カゾヤマ様をあなたが管理するのを危険と判断なさいました」
「いよいよ俺もおしまいか」
「静かに身を退くのが、王への最後のお勤めです」
「俺を処分するやつに尽くしてどうなる?」
「不敬ですよ」
「それがどうした?」
ギャレは言葉を詰まらせた。
「今のお前はくだらねえ説教じゃなくて命乞いする立場だ。何が出せる?」
「……監視を条件に、追放の恩赦を進言ではどうでしょう?」
「どのみち消すつもりのくせによく言うぜ。
仮にそうなったとして、お前らに惨めな暮らしを死ぬまで監視されるのは、俺には恩赦にならねえな」
「逃げるおつもりですか?」
「ああ。引く手あまたの隣国にでも亡命するさ」
アズィは自分の価値をよく理解している。
「そういうことで、お前の提案は却下だ」
その瞬間、ギャレの腹をフードの矢が貫き、
もう一人が長剣でトドメを刺した。
怪物同士の対決は、あっけなく終わった。
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「最後はカゾヤマか。お前に恨みはねえから好きにしろと言いたいとこだが……もう一働きしてもらう」
「ろくに馬にも乗れない男にできることなんかないぜ?」
「あそこの侵略者共を蹴散らしてこい」
「何を言ってる」
「聞いての通り、俺は隣国に行く。露払いだよ。
今なら村に向かった狩人も助けられるかもしれねえぞ?」
「ずっと見てたのか」
「ああ。俺は観察のプロだからな」
「何にせよお断りだ」
「ならリッカを殺す」
「するわけがない」
「お前を操れなきゃ価値のない女だ」
リッカはしばらくアズィを睨み、俺に向き直った。
「あの顔は本気。でも私は死を恐れない。だから何もしないで」
「俺はどっちでもいいぜ?
公爵への憂さ晴らしに付き合ってくれりゃ、お前も連れて行ってやってもいい。
リッカを守れるだけ守って、愛とやらで満足させてやれよ」
「……」
「これ以上グズるなら、従うまでリッカの指を切り落とす」
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