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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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91/116

91.逃亡劇の幕開け

突然の再会に絶句した俺を馬車に押し込んだヤマノは、

「じゃあな」

とだけ言って扉を閉め、馬車を発車させた。


リッカが俺の異常に気づき、心配そうに覗き込んでくる。


「どうしたの?」


「ヤマノ……なんであいつが……」


「誰なの?」


ヤマノの様子から、これは偶然ではない。

公爵側に取り入ったのか?

いや、イセカイジン嫌いの公爵がヤマノを飼うなんて普通はあり得ない。

だが、あいつはそこに“居た”。

あり得ないというのは、俺の思い込みにすぎない。


「カゾヤマ……」


「リッカ、さっきの兵士は以前俺を追い詰めた男だ。エリンヒャに俺を届けた――」


「イセカイジン狩りの男!でもなんで」


「少し待ってくれ。考えを纏めたい」


リッカは小窓を開け、ギャレに「適当な場所で停めて」と指示し、俺を待った。


---


「公爵がヤマノとどう繋がったのかは分からない。だが、それはどうでもいい。

問題は――俺とサギタの正体が公爵側に知られているということだ」


「なら、なんで捕まえなかったのかしら」


「それは……」


俺はリッカに力を告白しなかったことを後悔した。

ヤマノは俺の力を“体験”している。

公爵の居城で俺が暴走するのは危険だと判断し、

郊外で捕縛するつもりなのだろう。


「多分、あなたの力のせいなのよね?」


「ああ。俺の力は――」


「聞かないって言ったから言わなくていいよ。でも想像だけ言わせて?

あなたの力は、多分だけど……軍隊でも叶わないような何か」


俺は無言で頷いた。


「……なら、この先は検問だらけってことね。

何にせよ、アズィの領地まで逃げ切るしかないってことだわ」


「俺やサギタの問題だ。リッカはトーチたちと逃げてくれ」


「無理よ」


「何故だ?」


「私はあなたを見捨てられないもの。それに――どうせ見逃す気はない。

私は、亡命の企ての“証人”として、一番価値があるのよ?」


「アズィが切り捨てられないからか」


「そうよ。どちらにしても追われるなら、一緒に逃げる方が合理的でしょ?」


合理的。

これもアズィの教育の賜物か。


馬車のスピードが緩み、窓から空き地が見えた。

さっきのリッカの指示だ。


---


「ギャレに計画の失敗を伝える。

あいつが敵か味方かも分からないが、このまま街道を進ませるのは不味い」


「分かった。任せるよ」


俺たちは馬車を降り、リッカは街道脇の茂みに入っていった。

お花摘みというやつだ。


俺はトーチの側に行き、小声で告げる。


「トーチ、問題が発生した」


「分かった。何をすればいい?」


「俺はこれからギャレと話す。少し離れてていいから、ギャレを見張ってくれ」


「分かった。ジェイ、ロガ!用を足したら来てくれ!」


余計なことを聞かないトーチに、やや拍子抜けしつつも、

そのプロ意識に心から敬意を抱きながら、

サギタと休んでいるギャレの元へ歩いていった。


---


「ギャレ、少し話がある」


「構いませんよ。サギタ、あっちに行ってなさい」


「え〜、俺をハブるなよ」


ギャレの一睨みで、サギタはすごすごと離れていく。

入れ替わるように、トーチたちがギャレの背後にゆったりと位置を取った。


「何か問題ができたようですね」


ギャレは雰囲気を読み取ってそう言ったが、

そののんびりとした態度は変わらない。


俺はギャレの隣に座り、ヤマノについて話し始めた。


---

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