91.逃亡劇の幕開け
突然の再会に絶句した俺を馬車に押し込んだヤマノは、
「じゃあな」
とだけ言って扉を閉め、馬車を発車させた。
リッカが俺の異常に気づき、心配そうに覗き込んでくる。
「どうしたの?」
「ヤマノ……なんであいつが……」
「誰なの?」
ヤマノの様子から、これは偶然ではない。
公爵側に取り入ったのか?
いや、イセカイジン嫌いの公爵がヤマノを飼うなんて普通はあり得ない。
だが、あいつはそこに“居た”。
あり得ないというのは、俺の思い込みにすぎない。
「カゾヤマ……」
「リッカ、さっきの兵士は以前俺を追い詰めた男だ。エリンヒャに俺を届けた――」
「イセカイジン狩りの男!でもなんで」
「少し待ってくれ。考えを纏めたい」
リッカは小窓を開け、ギャレに「適当な場所で停めて」と指示し、俺を待った。
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「公爵がヤマノとどう繋がったのかは分からない。だが、それはどうでもいい。
問題は――俺とサギタの正体が公爵側に知られているということだ」
「なら、なんで捕まえなかったのかしら」
「それは……」
俺はリッカに力を告白しなかったことを後悔した。
ヤマノは俺の力を“体験”している。
公爵の居城で俺が暴走するのは危険だと判断し、
郊外で捕縛するつもりなのだろう。
「多分、あなたの力のせいなのよね?」
「ああ。俺の力は――」
「聞かないって言ったから言わなくていいよ。でも想像だけ言わせて?
あなたの力は、多分だけど……軍隊でも叶わないような何か」
俺は無言で頷いた。
「……なら、この先は検問だらけってことね。
何にせよ、アズィの領地まで逃げ切るしかないってことだわ」
「俺やサギタの問題だ。リッカはトーチたちと逃げてくれ」
「無理よ」
「何故だ?」
「私はあなたを見捨てられないもの。それに――どうせ見逃す気はない。
私は、亡命の企ての“証人”として、一番価値があるのよ?」
「アズィが切り捨てられないからか」
「そうよ。どちらにしても追われるなら、一緒に逃げる方が合理的でしょ?」
合理的。
これもアズィの教育の賜物か。
馬車のスピードが緩み、窓から空き地が見えた。
さっきのリッカの指示だ。
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「ギャレに計画の失敗を伝える。
あいつが敵か味方かも分からないが、このまま街道を進ませるのは不味い」
「分かった。任せるよ」
俺たちは馬車を降り、リッカは街道脇の茂みに入っていった。
お花摘みというやつだ。
俺はトーチの側に行き、小声で告げる。
「トーチ、問題が発生した」
「分かった。何をすればいい?」
「俺はこれからギャレと話す。少し離れてていいから、ギャレを見張ってくれ」
「分かった。ジェイ、ロガ!用を足したら来てくれ!」
余計なことを聞かないトーチに、やや拍子抜けしつつも、
そのプロ意識に心から敬意を抱きながら、
サギタと休んでいるギャレの元へ歩いていった。
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「ギャレ、少し話がある」
「構いませんよ。サギタ、あっちに行ってなさい」
「え〜、俺をハブるなよ」
ギャレの一睨みで、サギタはすごすごと離れていく。
入れ替わるように、トーチたちがギャレの背後にゆったりと位置を取った。
「何か問題ができたようですね」
ギャレは雰囲気を読み取ってそう言ったが、
そののんびりとした態度は変わらない。
俺はギャレの隣に座り、ヤマノについて話し始めた。
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