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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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90/116

90.異変

俺たちは再び湖上にいる。ベルマへ向けて出港したところだ。


「サギタ、変な人だったね。あなたじゃなくてあの人が村に来てたら処刑してたわ」


「ギャレが怖い顔で何か囁いたら黙ったから、もう大丈夫だろう」


昨日、リッカが戻った途端にサギタが「チューしろ」と騒ぎ始め、

ギャレが本気でキレたのだ。

今はギャレと船室で瞑想中だろう。


往路と同じく何事もなく、アズィのトラップも発動しないまま旅は終わろうとしている。

リッカは乗船してからまた不安な顔に戻り、水平線上に見えてきたベルマをじっと見つめていた。


「あのさ……力の件なんだけど」


「話そびれてた。……今から話すよ」


「いい。隠しておいた方が使いにくいでしょ?」


「……」


「私が認めたら、私の前なら使っても赦されるって勘違いしそうだし」


「ないとは言い切れないな」


「だから今のままが一番いいと思った」


「それは俺がまた逃げ回って生きるのを防ぎたいってことでいいか?」


「私と逃げ回るなら歓迎するけど?」


「アズィと対峙してから決める」


「そうしよう」


---


ベルマの岸壁には迎えの馬車の列ができていた。

ギャレが「俺たちの馬車がまだだ」と不思議がっている。


「おかしいですね。先に護衛の方の馬を取りに行ってもらってください」


俺はトーチに指示し、三人は馬を預けた新市街地へ向かった。


「寒いっす」


サギタがギャレの脇でモゾモゾしている。


ギャレは列の最後尾を確認してくると言い、走っていった。


「ギャレがミスするのはなんだか違和感あるよね」


これまで完璧に振る舞ってきたギャレが崩れたのは、確かに妙だ。


トーチが馬に乗って戻ってきた。


「馬車はどうだ?」


「分からない、まだだ」


「そうか。見えるところに居るよ」


---


三十分ほど経った頃、ギャレが戻ってきた。


「申し訳ありません。どうもミスがあったようで、私の馬車でお送りさせていただきます」


「分かった。サギタは御者の隣で」


「かしこまりました。ちなみに御者は私ですよ」


ギャレの馬車を中心とした隊列は新市街地を進み、街道に出たが、

すぐに検問の行列に足止めされた。


やがて俺たちの番になり、馬車を降りて兵士たちが荷を改めるのを待つ。


「例のクスリのせいかしら?」


リッカが囁く。


「だろうな。万一サギタが持っていたらおしまいだな」


俺たちは仮設の詰所で順を待ち、身分証を確認され、

極めて丁寧な身体検査を受けた。


「ご協力ありがとうございました!」


兵士は俺たちの潔白を宣言して敬礼した。

そういえば俺たちは“貴族”だった。

俺は微笑みを浮かべて軽く頷き、兵士の元を離れたが、

歩きながらリッカを見るとクスクス笑っている。


「随分板についてきたわね。でも兵士に愛想は必要ないわよ」


「そういうのは早めに教えてくれよ」


---


御者台にはすでにギャレとサギタが座っており、トーチたちも揃っていた。

馬車の扉を開けて待つフードの男は兵士だろうか。


「ホスピタリティ……採点不要」


「そうね」


男は馬車に乗るリッカに手を貸し、続いて俺にも手を貸した。


「良い旅を」


「ああ……?」


なんとなく声音に違和感を覚え、フードの奥の顔を確かめると、

そこには見知った顔があった。


「ヤマノ?!」


---

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