9.好事家
兄に連れられて家に入ると、弟君と母親らしき人物、そして赤ん坊を抱いた女性が食卓を囲んでいた。
特に警戒されている様子はないが、歓迎されているわけでもない。
「親父は部屋だよ」
「うん、親父、入るよ」
兄が玄関脇のドアに声をかけ、中に通されると、恰幅の良い白髪の男が俺を出迎えた。
「ようこそ、警吏さん。災難だったね」
「急に世話になって申し訳ない」
骨董が趣味なのか、部屋には民芸品や陶器がいくつも飾られており、燭台に照らされて海賊の隠し部屋のような怪しい雰囲気を醸し出している。
父親は兄弟同様に愛想良く、
「ご覧の通り、私はこういったものが趣味でして。息子から、警吏さんが良さげなものをお持ちだと聞いて、ぜひ拝見したいとお呼びだてした次第です」
と語る。
何もない田舎でひっそりと貴族気分を味わっている“好事家”というやつか。
「これですね」
俺にはちょっと高いブランデーの空瓶にしか見えないが、父親は目を輝かせている。
「ほうほう、これは見事な……ただ、擦り傷が実に惜しい」
何が見事なのかは理解できないが、この世界の工業力では製造の難易度が高いのだろう。
「良ければお譲りしますよ」
「なんと! ただ、我が家はそれほど裕福ではありませんし……なあ?」
胸の内を隠さないこの男は、交渉下手の自覚があるのか、兄にすかさず助けを求めた。
「親父の見立てだとどれほどの価値があるんだ? この人は王都から来てるんだから誤魔化すなよ?」
「そ、そんなことするか。そうだな……銀貨8枚。傷を差し引いても5枚……」
「え! そんなに? 俺の1年分の給金じゃないか」
この世界の賃金相場や貨幣価値は知らないが、1年暮らせるなら相当なのは分かる。
「そうだ、その価値はある」
「で、親父は買うのか?」
「うーむ……こんな田舎でお目にかかることは一生ないだろうし、ただなあ……」
悲しい顔でチラチラと俺を見てくる。
「では、銀貨3枚と代わりの水筒でどうですか? 世話になってるし、王都までの路銀さえできれば構いません」
「ほ、本当に良いのですか?」
男は飛び上がり、銀貨を用意してきた。
兄は肩をすくめて俺に微笑んでいる。
「宿場なら銀貨5枚だったろうに、損させてしまったかな?」
「いや、助かったよ」
父親は俺への興味を失い、部屋の奥で瓶を磨き始めている。
「なら、納屋に案内するよ」
納屋に行くと、兄が毛皮のポンチョのようなものを渡してきた。
「俺のお古で悪いけど、王都に着く前には雪になるだろうから使ってくれ」
「何から何まで世話になる」
そういえば皆、俺の服になんの違和感も抱かなかった。
王都とここじゃ比べようがないのか――そんなことを想像している間に、俺は眠っていた。
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