89.姿だけ変えても
「悪い悪い。久しぶりにあっちの人と話したから気が緩んで調子乗った」
茶を啜りながらまた肩を震わせるサギタに、
「そんな機能あるなら姿変えて逃げたら良かっただけでは?」
「それ。考えたんだけど、身分証が意外と厄介なのよ、アナログ世界のくせに」
「どういうことだ?」
「あんたがどう取り入って身分を手に入れたか知らんけど、まず“貴族か役付き警吏の保証”がないと身分証は作れない。オケ?」
「ああ。一般人はどうしてるんだ?」
「庶民は出身地で“住民の面通し”すると、1年有効の身分証を役人が発行してくれる。期限が切れたら地元の面通しからやり直し」
「面通しって、毎年地元に帰って幼馴染がチェックするイメージか?」
「それ。アナログ社会ヤバすぎ。殺して盗んでなりすましを繰り返すやつも結構いるらしいけど、俺は無理」
タルガンみたいなのがいくらでもいるのか…
「要は、人相だけ変えても新しい身分証がなくてすぐ詰むってこと。だから今回貴族の保護を選んだわけだ。オケ丸?」
「出身地のない俺たちはどうすりゃいいんだ?」
「緩い村か街の情に縋って認められたら、出身地にしてくれる。放浪者はそうやって根を張り、信用作ってからじゃないと身分証は作れねえ。俺も最初はそれだよ」
「なるほどな。仕組みは分かったし、お前の動機も分かったよ」
「で、保護されても監禁されたり拷問はないんだろうな?」
めんどくさいやつだから、一撃必殺で返す。
「ちなみに俺は今、貴族の娘とガチの新婚旅行中だ」
「偽装だろ?」
「後で死ぬほど見せつけてやる」
「あー、うん。ウザいから信用するわ」
コノヤロー。
「お前のためにどんだけ手間と金掛かったか分かってねえだろ?」
「いやいや、ここ見りゃ分かるっしょ普通」
「普通はもういいわ、お前はヤク作って売りさばいてたのか?」
「そうだよ?違法じゃないもん」
「その結果が今だろが」
「あー、キツイっすよその言い方。俺も生きるの必死だったんだってば」
「能力で作ってんのか?」
「そっすね。材料があればちょちょっと」
「まあ、それは保護された先から聞かれたら答えりゃいいわ」
「よろしく頼んまーす」
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ひたすら喋り倒すサギタを押しのけてギャレを呼び、
俺の仕事が終わったことを告げた。
ギャレは、サギタにリッカを会わせておきたいと言い、
リッカを待つことになった。
サギタはクルージングツアーのどこかで身代わりと入れ替わったらしく、
「どこで変わったか当ててみろ」としつこく絡んできたが、
さっぱり当たらず、またしてもサギタの爆笑に付き合う羽目になった。
「リッカ早く戻らないかなぁ」
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