88.サギタ
ロガの賭けの連敗は止まらず初日を終え、
2日目は庭で開催される弓の大会に参加した。
俺とトーチ以外、銀貨1枚の出場料を払い、貴族部門と使用人部門で当然のように優勝と準優勝を勝ち取った。
歴戦の狩人にしてみればスポーツハンティング勢に負けるわけがなく、俺は異世界チートライフ(他力本願)を堪能した。
「私は銀リスの帽子をもらえたわ」
ベールのついた毛皮の帽子を被ったリッカがくるくると回る。
ジェイはロガに負けて悔しそうだったが、高価そうな蒸溜酒の瓶を抱えていた。
ロガも瓶のワインを選び、誇らしげに俺を見ている。
値段を知ったら泡吹くだろうな。
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3日目は全員でクルージングに参加し、初めて氷河を見て触れた。
上陸先のログハウスのレストランで食事を摂り、土産店でリッカに水晶の入った銀のペンダントを買った。
「もう帰りたくない。でも破産しちゃう」
ホテルの部屋のベッドでペンダントを眺めているリッカを横目に、俺が茶を飲んでいるとギャレが来た。
「明日の朝、リッカ様にオイルマッサージをご用意いたしました。明朝ロビーでお待ちしております」
そう言ってスマートに去るギャレは何者なのか。
そういえば王の目の証拠の件を忘れていた。
ここは恐ろしい場所だ。
リッカを見て、もう一つの忘れもの――俺の力の告白は、どう考えてもタイミングが悪いのでその夜は話題にしなかった。
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4日目の朝、約束通りロビーに行き、リッカはサウナ&オイルマッサージに向かった。
「それで、リッカ抜きでなんか話があるんだろ?」
俺はリッカを見送りながら、ギャレを見ずに言った。
「お部屋にお戻りください。サギタを連れて行きます」
「何っ?」
「どうかお部屋にお戻りください」
「ああ、済まん」
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部屋に戻ってソワソワしていると、ギャレに続いて身代わりが入ってきた。
ギャレは、
「私は部屋の外にいます」
とだけ言ってスッと出て行った。
「あんたがカゾヤマか?」
身代わりがつっけんどんに話しかけてきた。
どういう展開だ?
「サギタと入れ替わるのは失敗したのか?」
「いや、俺はサギタだけど?」
意味が分からない。
俺ははるばる何しにここに来たんだ?
「ベルマからの逆亡命だったのか?もしかしてドッキリか?」
「あんたちょっと落ち着けよ。バラエティ番組の芸人かよ」
ああ、これは本人だわ。
「分かった、落ち着こう」
「そんなに驚くとは思わなかった。まさかチューナーの機能知らんの?」
「機能って翻訳以外にも何かあるのか!」
「いや、だから落ち着こうよ。チューナーは他人の姿をコピれるってネオンが言ってたじゃん」
またネオンか。
「それが、椅子に座ってなくてチュートリアルなかったんだよ」
「ギャハハハハ!なにそれ!」
サギタは床に転がり爆笑して、
「もしかして、説明書読まずに捨てるタイプ?」
「いや、椅子に座らなかっただけだが…」
「人間は椅子があったら座るでしょ普通」
どこかで聞いたことがあるが、俺って普通じゃないのか?
「ただでさえゲームっぽい始まりなのに、あれこれ試すっしょ普通」
サギタは腹がよじれると言いながら笑い続けている。
「普通普通うるせえよ。お前が落ち着くまで暇だから茶でも淹れてやる」
俺はそう言って暖炉に向き直った。
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