87.ロイルデン
船は夜通し進み、翌日の遅めの朝にロイルデンへ入港した。
朝の光が湖面に反射し、桟橋の白い石が淡く輝いている。
貴族専用の桟橋には宿の出迎えが並び、
磨き上げられた馬車が次々と人と荷を運んでいく。
俺たちもその一台に乗り、街へ入った。
街路樹が立ち並ぶ運河沿いの石畳は、
雨に濡れたように艶があり、
その脇には高級品を扱う商店が軒を連ねていた。
ショーウィンドウには宝飾品や香水瓶、
見たことのない織物が飾られ、
大勢の貴族がゆったりと散策している。
馬車の車輪が石畳を滑るように進むたび、
香水と焼き菓子の甘い匂いが風に混じって流れてきた。
やがて広場のような橋に差し掛かり、
運河をまたいで対岸へ渡る。
そこにはサッカーコートほどの庭を抱えた巨大なホテルがあり、
ガラスをふんだんに使った外観は陽光を受けて眩しいほどだった。
庭には噴水があり、白い水柱が静かに揺れている。
通された部屋は、
壁一面が湖に面したガラス張りで、
絨毯は足が沈むほど厚く、
家具はどれも彫刻のように美しい。
まるで別世界だ。
「高級リゾートというやつだな」
俺の謎の独り言にすっかり慣れたリッカは、
意味も分からず「そうね」と相槌を打つようになり、
俺は年寄り扱いされている錯覚に襲われた。
「さっきの商店街に行ってみたい」
「いいよ」
「トーチ達はどうする?」
「たまには護衛らしく周辺を偵察してくるよ」
「住宅街には近づくなよ?」
俺はギャレに言われた注意事項を三人に伝えた。
「ギャレは部屋かな。まあ自由行動でいいか」
「よしきた。俺は後で釣りをやってみたい」
ロガが言うと、ジェイが
「気が短いから向いてない」とからかい、
いつもの賭けが始まった。
「トーチには小遣いを渡す、リッカ」
「ここは何もかもが別世界だから気を付けてね」
銀貨が十枚入った袋を渡した。
「さっき使用人区画の売店を覗いたが、
怖くて部屋から出たくなくなったぜ」
「俺たちも似たようなもんだよ」
「じゃあ、行動開始だ。俺はロガが釣れない方にエール一杯」
「早くいっちまえ」
リッカは計画が分かって多少気が晴れたのか、
ここ最近で一番楽しそうだった。
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