86.船上の答え合わせ
翌朝、ギャレが身代わりの男とロビーで待っていた。
身代わりの男に挨拶しようとすると、ギャレがスッと間に入った。
「さあ、帆船の旅に参りましょう。皆様は初めてでしょうか?」
――関わるな、ということか。
行き先はロイルデンという対岸の港町で、
氷河クルージングが人気の観光都市だそうだ。
何事もなく乗船手続きを終え、朝もやの中、船は静かに出港した。
陸がみるみる遠ざかっていく。
ロガは帆に夢中でずっと見上げていたが、
他の貴族の従者たちが失笑するのに気づいて船室に消え、
トーチが指で小さく合図をして後を追った。
「さて、昨日の続きをお話しましょう。あちらへどうぞ」
ギャレは近くのベンチに俺たちを座らせ、
懐からカイロ石を取り出してリッカに渡した。
「まずは昨日の確認だが、公爵は自分でサギタを捕らえたい。
アズィは獲物を横取りされたくない。これで対立してんだよな?」
「はい。公爵様がイセカイジンをどうお思いかはご存じでしょうか?」
「公爵はイセカイジン抹殺を誓ってんだっけ」
「そうですね。それもあって、公爵様はサギタにクスリで領地を荒らされたことを
本当にお怒りなのです」
「アズィの貴族嫌いも大概にしろよな」
「それがアズィ様の全てですから」
ギャレは穏やかに答えた。
「それでサギタは、どうやって俺に会う予定なんだ?」
「ハイズマン様は、ただ宿でお待ちいただくだけで結構です」
初めて名を呼ばれた。
「宿は貴族区だろう?」
「イセカイジンの力は我々の埒外ですから、
どうやって入るかは分かりかねます」
「本人がうまくやらなきゃ見捨てるってことか」
「はい。アズィ様からもそのように指示されております」
恐らく“入れ替わり”はサギタの案なのだろう。
身代わり以外の誰にも気づかれず、自力で紛れ込めなければ、
それまで――という関係らしい。
「帰りはどうなるんだ? サギタは俺たちがアズィのところへ連れていくのか?」
「いいえ。ベルマで仲間に引き渡したら、
皆様はのんびりお帰りくださって結構ですよ」
「サギタが公爵の手に落ちなきゃ、アズィの勝ちで終わりってか」
「アズィ様にとっては“狙った獲物を仕留める”ことが重要なだけで、
サギタ自体に関心はないのです」
「状況は分かった。
それで、俺たちは旅行をするだけ。
あんたらが何をしようが無関係――それでいいか?」
「はい、もちろんです。
何もお気になさらず、ご旅行をお楽しみください。」
ギャレが離れると、リッカが囁いた。
「寒い。私たちも部屋に戻りましょう」
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