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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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83/116

83.ハネムーン

翌朝、俺たちは迎えの馬車に揺られていた。

四方と天井に小窓があり、車内は明るい。後ろにはロガとトーチ、ジェイは先行偵察だ。


「おーい」


御者が気づかないのを確認し、リッカを抱き寄せて囁く。


「満喫すると言ったが、気になることを話していいか?」


「もちろん」


「この旅、豪華すぎないか?」


「支払いはアズィなんだから……」


リッカは俺の意図に気づき、言葉を飲んだ。


「イセカイジンを運ぶだけなら縛って運べばいい。極端に言えば殺して灰都で待ち伏せでも済む」


「確かに。相手の機嫌を損ねるのが不味い、とか?」


「かもな。何者なんだろう……」


「怪しい薬って、どんなの?」


「推測だが、俺の世界には嗅ぐだけで酒の何十倍も気分が良くなり、やめられなくなる薬があった。体も心も壊れて、金欲しさに犯罪に走る。そんなものが広がれば――」


「国がめちゃくちゃになる」


「アズィが貴族を憎んで広める可能性も考えた」


「却下。あの人は“自分で罠を仕掛けて支配する”以外に興味ないわ。狩人よ」


「イセカイジンの力を利用する気もなさそうだしな」


「力と言えば、まだ話す気にならないの?」


「向こうに着いたら話す。今はリッカの心を乱したくない」


「いいわ。集中力を欠いたら、今みたいな会話はできなさそうだもの」


この俯瞰力は、リッカだけでなく俺にとっても命綱だ。


「リッカに出会えて本当に良かったよ」


「なら考え事は休憩して、しばらく私を褒め称えて」


「もうやめてと言うまでやめないぞ?」

---

馬車はベルマではなく、途中の宿場に到着した。

御者は俺たちを看板のない建物へ案内し、「明朝迎えに来る」とだけ言って去った。


「ベルマはここから半日の距離だ。明日はベルマ泊まりなのかな」


ロガが教えてくれた。

建物に入ると、2階に案内され、従者用の大部屋と客室が一室ずつだけの貸切宿だと説明された。


従業員は鍵を渡し、玄関と客室は共用だと告げ、

「食事は隣の建物でご用意できます」と言って去った。


「風呂と言っても湯船はないか」


1階には、水と熱湯を水槽から汲んでかけ湯で体を洗う洗い場があり、

俺とリッカは一緒に利用した。

その後トーチに声をかけ、終わったら食事に行こうと伝えた。


---


「ここの名物は炭焼き貝だ。まずは、それでいいか?」


ロガの仕切りで食事が始まった。

七輪で巻き貝を焼き、エールを飲む。

ロガはあちこちで護衛をしていたらしく、公爵領だけでなく他の領地にも詳しい。

武勇伝や名産を次々と語り、俺とリッカを感心させた。


他の二人は聞き飽きているのか、相席のような空気になっていたが、

ロガがひとしきり話し終えたところで部屋に戻っていった。


---


「さて、寝るまで朝の続きをしよう」


「じゃあ、私から。明日、警吏に会ったら聞けるだけ聞く。 嘘をつくのは承知として、そこから考える」


「終わってしまったんだが」


「良かったわね、休憩の続きをしよう」


リッカはそう言いながら、

オリーブ石鹸の香りのする髪で俺の頬をくすぐり始めた。


---

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