83.ハネムーン
翌朝、俺たちは迎えの馬車に揺られていた。
四方と天井に小窓があり、車内は明るい。後ろにはロガとトーチ、ジェイは先行偵察だ。
「おーい」
御者が気づかないのを確認し、リッカを抱き寄せて囁く。
「満喫すると言ったが、気になることを話していいか?」
「もちろん」
「この旅、豪華すぎないか?」
「支払いはアズィなんだから……」
リッカは俺の意図に気づき、言葉を飲んだ。
「イセカイジンを運ぶだけなら縛って運べばいい。極端に言えば殺して灰都で待ち伏せでも済む」
「確かに。相手の機嫌を損ねるのが不味い、とか?」
「かもな。何者なんだろう……」
「怪しい薬って、どんなの?」
「推測だが、俺の世界には嗅ぐだけで酒の何十倍も気分が良くなり、やめられなくなる薬があった。体も心も壊れて、金欲しさに犯罪に走る。そんなものが広がれば――」
「国がめちゃくちゃになる」
「アズィが貴族を憎んで広める可能性も考えた」
「却下。あの人は“自分で罠を仕掛けて支配する”以外に興味ないわ。狩人よ」
「イセカイジンの力を利用する気もなさそうだしな」
「力と言えば、まだ話す気にならないの?」
「向こうに着いたら話す。今はリッカの心を乱したくない」
「いいわ。集中力を欠いたら、今みたいな会話はできなさそうだもの」
この俯瞰力は、リッカだけでなく俺にとっても命綱だ。
「リッカに出会えて本当に良かったよ」
「なら考え事は休憩して、しばらく私を褒め称えて」
「もうやめてと言うまでやめないぞ?」
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馬車はベルマではなく、途中の宿場に到着した。
御者は俺たちを看板のない建物へ案内し、「明朝迎えに来る」とだけ言って去った。
「ベルマはここから半日の距離だ。明日はベルマ泊まりなのかな」
ロガが教えてくれた。
建物に入ると、2階に案内され、従者用の大部屋と客室が一室ずつだけの貸切宿だと説明された。
従業員は鍵を渡し、玄関と客室は共用だと告げ、
「食事は隣の建物でご用意できます」と言って去った。
「風呂と言っても湯船はないか」
1階には、水と熱湯を水槽から汲んでかけ湯で体を洗う洗い場があり、
俺とリッカは一緒に利用した。
その後トーチに声をかけ、終わったら食事に行こうと伝えた。
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「ここの名物は炭焼き貝だ。まずは、それでいいか?」
ロガの仕切りで食事が始まった。
七輪で巻き貝を焼き、エールを飲む。
ロガはあちこちで護衛をしていたらしく、公爵領だけでなく他の領地にも詳しい。
武勇伝や名産を次々と語り、俺とリッカを感心させた。
他の二人は聞き飽きているのか、相席のような空気になっていたが、
ロガがひとしきり話し終えたところで部屋に戻っていった。
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「さて、寝るまで朝の続きをしよう」
「じゃあ、私から。明日、警吏に会ったら聞けるだけ聞く。 嘘をつくのは承知として、そこから考える」
「終わってしまったんだが」
「良かったわね、休憩の続きをしよう」
リッカはそう言いながら、
オリーブ石鹸の香りのする髪で俺の頬をくすぐり始めた。
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